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何気ない毎日のルーティーン。それもまた、旅の一つの醍醐味なのである。

チベット・インド旅行記
#44,リシュケシュ②

【前回までのあらすじ】ロシア人師匠のサーシャと禅の修行を始めた、まえだゆうきは、ヨガの聖地リシュケシュで本格的に修行を始めたのであった。

1つの街に2週間以上滞在すると、自然とお気に入りの店や、行きつけのレストランなどが出来てくる。
何気ない毎日のルーティーン。それもまた、旅の一つの醍醐味なのである。

リシュケシュ一の吊り橋、ラクシュマンジューラのそばに、川べりにせり出すように建っているレストラン、「ルーフトップ」はローカルなインド料理が美味しい名店だ。
 
従業員がナンのような丸いパン生地を空中にぽんぽん放り投げながら作るロマリロティーは、回転させていくうちに生地が伸びていって、最終的にはクレープ状になっていく様子が楽しい。
 
ふっくらと焼き上がったロティーを食べながら熱々のマサラチャイをすすり、屋上にクッションを敷いてだらだらしたり、読書をしたり、午後のひと時をよくここで過ごした。

川を挟んだ向かい岸にあるゲストハウス付きのカフェ、
「RAJ PALASE(ラジパレス)」はオランダ人のオーナーとインド人の奥さんが夫婦で経営するオシャレな場所で、広い庭と居心地のいいオープンカフェが旅人たちの心をくすぐる、リシュケシュの隠れ家的スポットだ。

 
オーナーのクリスは50~60代ぐらいのよく日焼けした長髪のミドルガイで、竹で編んだ涼しげなリクライニングチェアに寝っ転がりながらぷかぷかとパイプをよくふかしている。

 
奥さんのアイラはサリーがよく似合う、ふくよかな肝っ玉母さん風の女性で、サーシャと私に美味しい自家製チャパティーの作り方を教えてくれた。

ラジパレスの敷地内にはワークショップを行う用の建物もある。
私はバラナシで一度挫折したインドの打楽器、タブラのレッスンをリベンジも兼ねて受ける事にした。

 


【タブラ】タブラとは、木と金属で出来た小さな壺のような太鼓である。二つの太鼓が横に並んで一セットになっている。タブラ奏者はあぐらをかいて座り、指を使ってタブラを叩く。

太鼓にはよくなめした皮が張られていて、親指や人差し指、中指で素早く皮を打ち鳴らすことで、ディン、ディン、ドゥン、ドゥンといった独特な音を出す。

タブラは世界で一番難しい打楽器とも言われており、慣れるまでは音を鳴らすことすら難しい。

(ちなみに世界で一番難しい弦楽器は同じくインドの弦楽器、シタールである)。

 
リシュケシュでの私のタブラの先生はモンティス・ハーといい、色黒の肌に真っ白なクルタ、うすく禿げ上がった頭髪と寡黙な表情に威厳が漂う初老の先生だ。

モンティスの指は長年のタブラの演奏で石のように硬くなっており、タブラの縁の硬い部分を叩くと、カーン、カーンと乾いたよく響く音が教室に鳴り響く。
(私が同じように叩いてもぺシッという情けない音しか鳴らない)。

さて、肝心のタブラのレッスンだが、まずはモンティスがタブラのフレーズをノートに書き込む。


TEKE - TEKE - TEKE - THUKU
DUNA - DINA - DUNA - DINA

などなど。


タブラの独特なフレーズをまずは声に出して音読し、リズムと感覚をぼんやりと掴むのだ。


それが出来たなら、今度は実際にタブラを使って音を鳴らしていく。
小さな壷ぐらいの大きさのタブラだが、縁の硬い部分を叩いたり、真ん中の柔らかい部分を叩いたり、表面の皮をぎゅっと押し、張力を変えて音のトーンを変化させたりと、びっくりするぐらいの音のバリエーションがある。
 
私はバラナシでもタブラのレッスンを受けていたので、比較的早く音が出せるようになってきて、タブラの練習にも夢中になった。


リシュケシュ滞在中は、寝ても覚めてもタブラの事で頭がいっぱいで、暇さえあれば鍋でも釜でも指で叩いていた。その甲斐あってか、モンティス直筆のタブラのフレーズ集はノート3冊分にもなり、インドでの私の宝物となった。

タブラやシタールといったインドの民族楽器は、実際に鳴っている音に対して、倍音という共鳴音が鳴りやすいように作られていて、演奏を聴いていると、どこからともなく耳鳴りが聞こえてくるような不思議な浮遊感に包まれる。

 
熱心なヒンドゥー教徒が多く暮らし、ヨガの聖地があり、仏教が生まれた場所がありと、精神的な土壌が豊かなインドにはまさにぴったりな楽器、それがタブラ、シタールなのである。


そんな風に毎日のようにラジパレスに通っていたある日。
オーナーのクリスがやって来て話を持ちかけてきた。

「ユーキ、サーシャ。実は知り合いがリシュケシュの山の麓に家を一軒持っていて、誰か借り手がいないか探しているんだ。
見たところ、ユーキもサーシャも長くリシュケシュに居るみたいだし、良かったら1ヶ月6千ルピー(約1万5千円)で住んでみないか?なかなか静かで良いところだよ」。

 
一軒家。
まさか旅をしていて家を借りる事になるとは思わなかった。
でも、1ヶ月6千ルピーという事は、2人で割れば3千ルピー(約7千5百円)、悪くない金額だ。


どうする?とサーシャに相談してみると、心配無用、もうすでに住む気満々でワクワクしているサーシャ。


「ユーキ。禅の道を歩む者にとって、修行を行う場所ほど重要なものはない。
このままゲストハウスに泊まり続けるよりも、静かな一軒家に住む方が、きっと良い修行の成果が得られるだろう。いや、そうに違いない。

よし、そうと決まったらすぐに家を見に行こう。
そして、そこに俺たちの禅堂を作るのだ!

禅堂が出来た暁には生徒を集めて、俺とユーキで禅の道を教えよう。
それがいい!」

 

禅堂…。
家を借りるだけの事でなんだか大袈裟な気がしないでもないけど、確かに、ちょっとした秘密基地みたいで楽しそうではある。

 
何気ない毎日のルーティーンからの思わぬ出会い。
それもまた、旅の一つの醍醐味。なのかもしれない。

→リシュケシュ編③に続く



【チベット・インド旅行記】#45,リシュケシュ③はこちら!

【チベット・インド旅行記】#43,リシュケシュ①はこちら!


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