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マッチングアプリの女の子2

【日々はあっちゅーま】
#11, アスミちゃん2


「前回までのあらすじ」
失恋の傷を癒す為、マッチングアプリを始めた、まえだゆうき。
ところが、待てども暮らせども、マッチングする気配は無し。
諦めかけたその時、ついにマッチの知らせが!
そして今、運命をかけた恋が始まろうとしていた。

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地中海風の異国の街をバックに、ほっそりした眼の女の子が、こちらをじっと見据えている。



後ろできゅっと結んだ髪、色白の肌、口角が上がったアヒル口が可愛らしい。


『アスミちゃん/34歳/仕事、マネージメント』


私のマッチング相手の女性である。



異国の街の写真、旅行好きだろうか?

野外フェスの風景もある。
アクティブで、サブカルが好きな女の子なのかな?


何を話そうか、どこへ行こうか、ワクワクが止まらない。
しかし焦りは禁物、最初の挨拶が肝心だ、失敗は許されない。

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軽目に流そうか、かしこまっていこうか、顔文字はありか?

一人称は何にしよう、長文は重いかな?

何度も下書きに下書きを重ねて、文章を打ち込む。


〜〜〜〜〜


はじめまして⭐️
ゆうきといいます。
よろしくお願いいたします。

プロフィール拝見させて頂きましたが、〇〇に行かれてたんですね!
私も昔、〇〇を旅をした事があって、思わず懐かしい気持ちになりました。

〇〇(バンド)もいいですね!
アスミさん、UKロックがお好きなんですか?


〜〜〜〜〜


 
とまぁ、こんな感じ。

もう、メッセージ1つ送るのも大仕事である。

えいや!と送信ボタンを押した後は、神に仏にひたすらに祈り続ける。




祈りが天に届いたのか、魂込めたメッセージが功を奏したのか、次の日、アスミちゃんからも好意的な返信が届いた。



晴れて2人のやり取りが始まった瞬間である。

 
ガツガツしていると思われないよう。
焦らず、急かさず、あくまでも平静を装って。



(平静を装ったやりとりの一例)

・お返事ありがとうございます。美術関係のお仕事されてるんですね!私は家具屋で働いています。

・今日は念願のシューズが届いたので、ランニング行ってきました!

・今日もなかなか忙しい1日でした。これからポトフ温めて食べます!

・河原で散歩中です、今日も1日が終わりますね〜。

などなど

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作った料理の写真を送ったり、近所の河原の写真を送ったり。

アスミちゃんが、アークティックモンキーズ(UKロックバンド)が好きと聞けば、すぐさまApple Musicで視聴して感想を送ったり。


ピタゴラスイッチの佐藤雅彦が好きと聞けば、その場でAmazonで本をポチったり。



まるで時限爆弾の処理班のような気持ちで、1通1通メッセージを送っていく。


この返しは正解か?


もうちょっとウィットに富んだ方がいいか?


調子に乗って返信が来なかったらどうしよう。



好印象を勝ち取るために、水面下で駆使する戦術、駆け引きの数々。


自分は戦国時代の天才軍師、山本勘助の生まれ変わりなのでは?と錯覚してしまうほど、その頃の私の脳味噌は冴えわたっていた。
(恐るべし恋のパワー)

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毎日毎日、仕事が終わると、走って家に帰って真っ先にメールをチェック。


一喜一憂の日々。



そうして1ヶ月が過ぎる頃には、アスミちゃんのLINEのアドレスを教えてもらい。



さらに1ヶ月が過ぎる頃には、電話でも話すようになり。
だんだんと距離感を縮めていった。



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元々、美術系の仕事をしているアスミちゃんと、絵本を描いている私は波長が合っていたようで。


アルゼンチン出身のカルト映画監督、アレハンドロ・ホドロフスキーの話で盛り上がったり。

現代アートの方向性や、インスタレーションの可能性について、長電話で熱く語り合ったり。


マッチングアプリでついこの間知り合ったばかりとは思えない。
共感というか、共鳴みたいなものを感じていた。

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そしてそんな共鳴が、運命に変わる日が、ある日やってきた。




休日は、お出かけ先の様子を写真でやり取りをしていた、アスミちゃんと私。

その日もアスミちゃんから、メッセージが届いた。



「ゆうくん、今、何してる〜?私は友達とカフェ巡りしてるよ〜」


ピロリン


「カフェか〜いいなぁ」
何気なく、届いたメッセージを見てびっくり。
コーヒーを危うく吹き出しそうになった。



雑木林をバックに映る、古民家風のカフェ。


木製のテーブルに載った、サンドイッチのプレートとコーヒー。


土壁に飾られたギャラリーの展示。




私の両親は、私が小学生の頃に、一念発起して商売を始めた。


実家の納屋を改築してギャラリーを作り、カフェを開いた。
いわゆる、古民家風カフェというジャンルの走りである。


コンセプトが良かったのか、はたまたコーヒーが美味しかったのか。
おかげさまで商売は軌道に乗り。
私が大人になった現在も、変わらずに営業中である。






「そんな実家のカフェの写真が、今、手元にある」



アスミちゃんから、更にメッセージ。


「ゆうくん、Nってカフェ知ってる〜?美味しいんだよ〜。確か、ゆうくんの地元の近くだったと思うけど」



知っているも何も。


近くも何も。



そこ、実家ですが。

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冷静になって、まず、これがドッキリ企画なのかどうなのか、本気で考えた。

私に出川哲郎みたいなボケをかませと、隠しカメラで誰かが見ていないか、周りを見回した。


 
アスミちゃんから、更にメッセージ。
 
「Nにはよく来るんだよね〜。お勧めだから、ゆうくんも今度一緒にいこ〜ね〜



マッチングアプリで知り合った子に、まさか実家をレコメンドされる日が来るとは。


一緒にって。


両親に交際のご挨拶に?



話を聞いていると。
どうやら、ドッキリでもなく。
私の経歴を事前に調べたわけでもなく。


たまたま偶然、アスミちゃんは私の両親のカフェのファンで、ちょくちょくコーヒーを飲みに行っているらしい。




「カウンターでコーヒー淹れてるの、俺の親父だよ」

とメッセージしようか迷ったけどやめた。



思うに、この地球という同じ惑星の、同じ時代に生まれて、こうして出会っているだけで奇跡のようなものだと、普段から私は思うようにしているが。


今日という日ばかりは、奇跡のダブル役満のようなものを、感じずにはいられなかった。



(ちなみに、アスミちゃんには、そのカフェ僕の実家です。とは、最後まで言わなかった。それを知ったら、きっと向こうも運命を感じて冷静な判断が出来なくなっただろうから)

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その一件があってからというもの。


アスミちゃんとの今後を真剣に考えるようになった私は、かねてからずっと言おう、と思っていた、絵本活動の事を切り出すことにした。


 
言いづらい事や、都合の悪いことは、最初の内に言っておかなければ後々面倒な事になる。



「もしもし〜、ゆうくん、話ってなあに?」


 
「アスミちゃん、実は俺、黙っていたけど、ずっと絵本を描いていて、それで食っていくのが目標なんだ」



「そして、いずれは絵本を描きながら、世界を旅して回るのが夢なんだ」



「あとね、家具屋で働いているっていう話も、正社員じゃなくてアルバイトなんだ。会う前にちゃんと言っておかないといけないと思ってね…」




「…」




しばし、沈黙。




これは流石に終わったか?と、観念してじっと待っていると。








「え〜絵本すごいじゃん!ゆうくん、何かやってる人だとはずっと思ってたけど。いいんじゃない?応援するよ〜」



と、ここでまさかの好印象。
この子は女神様か!と本気で思った。



電話を置いてほっと一息。


いや〜、ちゃんと腹を割って話してよかった。
あとは実際に会うだけだ!



アスミちゃんに、おやすみメールを送り、床についた。














ところが翌日、
LINEを開いても、アスミちゃんからの返信は無く。


以後、連絡はぷっつりと途絶えてしまった。





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(アスミちゃん、最終回へつづく)




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【最強を決めるジャンケンバトルが今はじまる!!】


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