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リチャード・ドレイファスが多様性に「吐き気する」と暴言

アカデミー作品賞選定に新基準


CNNによると、米映画芸術科学アカデミーが発表した新しい多様性重視の選考基準に対し、俳優のリチャード・ドレイファス氏が「吐き気がする」と発言、批判を繰り広げました。

この「新しい基準」とはすでに前回2月のオモシロ映画道場に来てくれた方には解説済みです。

ようは、2024年からのアカデミー作品賞は、主だった出演者に有色人種やLGTBTなどマイノリティーを起用するか、出演者やスタッフの3割以上に起用しなくてはいけないというものです。

こうした基準を4つ設け、そのうち半分を満たさないとノミネートされないという非常に厳しい基準に変更されます。

これはかねてから予告されていたことであり、だからこそ今年の作品賞を、ノミネート作品の中で最も「多様性」に満ちた『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が獲得するのは100%間違いないと、私は断言していました。

⇒証拠
https://www.facebook.com/watch/?v=503276665336601

つまり、2024年から基準が激変するのに、今年の作品賞にそれを満たさないものをわざわざ選ぶわけがないという理屈です。

24年からの新基準にしても、エブエブの受賞にしても、米映画界が「ボクたちは多様性を重視しているヨ」という全世界へのアピールなのですから、当然そうなるに決まっているのです。

◆新基準に米保守派が猛反発

これに対し、リチャード・ドレイファス氏のような人物が猛反発するのも予想できたことです。彼はリベラル派が多いハリウッドでは珍しい、共和党支持者であり保守派です。

彼は、1965年の映画「オセロ」で顔を黒く塗って主役を演じた英俳優のローレンス・オリヴィエの演技をわざわざ誉めたうえで、

「今後は私が黒人の役を演じるチャンスは絶対ないのか?」

「ユダヤ人でなければベニスの商人役を演じてはいけないのか? 気が狂ったのか? 芸術は芸術だと分からないのか?」

と発言したとのことです。

CNNの翻訳がわかりにくいのですが、ようは演技やお芝居はフィクションなんだから、白人が黒人を演じたっていいし、ユダヤ人のキャラクターを別の人種が演じたっていいではないか、ということのようです。

◆ドレイファス氏の言い分は、歴史的経緯を無視した暴論

日本人からすると一見、これは理があるように見えますが、いろいろと間違っています。

まず、これまでの歴史を見ても、白人が黒人を演じることはあっても、その逆はほぼありません。

それは、白人が有色人種を演じることそれ自体が、ある種の人種差別的な要素をはらんでいた歴史があるためです。

たとえば、ステレオタイプな出っ歯で細目の日本人を、日本人以外(つまり白人俳優)が演じることは、その根底に日本人差別があるからです。

もう少し解説すると、つまり日本人に見えない白人が日本人を演じるために、わざわざ一目で(アメリカ人にとって)日本人らしく見える「出っ歯で細目」の扮装をするわけです。

こんなことをやっていては、日本人の本当の姿が描かれる日など永遠に来ない事がわかりますよね。

こういうことが当たり前に行われることで、ときに人種差別を助長する可能性があると、当時から黒人など差別される側の当事者から批判されていました。

しかし米映画界は数十年間、なかなかその批判にこたえることなく、近年になってようやく「ホワイトウォッシング」(白人以外のキャラクターを白人俳優が演じる問題)の文脈の中で、そういうことはやっぱり良くないからやめようね、となった歴史があります。

◆歴史的には常に白人側が強者、今はその修正期にあたる

アメリカ映画業界においては、その歴史を通じて常に白人だけが強者であり、それ以外が差別されてきた現実があります。だから「黒人が白人を演じる」ことがほとんどなかったわけです。

一方、舞台演劇の世界では、ミュージカル「ハミルトン」のように、史実では白人のワシントンやハミルトンといった「アメリカ建国の父」に黒人などを配役することもまれにあります。

しかしこの作品の場合は、わざわざ異人種キャスティングをウリにしている企画で、その変更によりむしろ「多様性」のテーマを色濃く意識させる例外的なパターンです。

◆ドレイファス氏の言い分は強者の理論でバランスを欠いている

たしかにドレイファス氏の言う、「お芝居なんだから、異なる人種の人が演じてもいい」論は正論のように見えるかもしれません。

しかしそれは「時と場合による」のであり、2023年のアメリカでは通用しない理屈だというほかありません。

結局のところ、長きにわたって白人が人種差別をしてきたのがコトの原因なのであり、私に言わせれば「自業自得」です。

アメリカ社会における偏見と差別が減少し、社会問題といえないくらいのレベルに改善されるまでは、このように強力な「規制」によって、その強制力の元でむりやり現状を改善させるのもやむを得ないというのが、ハリウッドでのコンセンサスです。

差別意識のない大多数の白人クリエイターたちには気の毒な話ではありますが、アメリカではまだまだ当分はそういう時期(過去に差別してきた側へのおしおきターン)だということです。

アカデミー作品賞の新基準についても普遍的なものではなく、遠くない将来、微調整を繰り返すことになるでしょう。

このように、ハリウッドや欧州の映画が近年重要視する「多様性」の問題については、一般的な日本人の感覚で是非を判断すると本質を見誤ることが多いので、注意が必要です。

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今回ニュースになったアカデミー賞新基準については、3か月前に解説済みです。
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皆さんに会える日を楽しみにしています。

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