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[ビジネス小説]未来へのプレゼン 第14話 おすすめの本が伝えてくれるものとは

マーケティング部の管理職メンバーが全て参加することになった、プレゼンノック。

前回は折り返しで5日目の「今までに読んだ書籍TOP3プレゼン」。

慎吾がプレゼンした書籍は、全てが書の本であった。

小学生の頃から書道塾に通い、書の魅力に取り憑かれ、大学でも書道部に入るほど熱烈に書を愛していた。

そんな書道オタクの慎吾が選んだのは法帖という古典の作品が印字されたいわゆる「お手本」である。

間違いなく、その場にいるメンバーは誰一人そんなマニアックな書籍は知るはずもなく、その書籍を出版している出版社の名前も聞いたことがなかった。

熱く顔真卿という書家について語ったかと思えば、空海についてその人間性に至るまで語り続ける慎吾は、オススメの書籍というよりも書道ファンの叫びと言った所だった。

そして聴き終わったメンバーの感想は

『そんなに好きなら会社を辞めて書家になれ。』

という、辛辣ながら暖かいコメントだった。

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「つまり、大好き押しでは伝わらないってことだよ。」

丸山部長はそっとフォローした。

「なぜかわかるかい?

答えは簡単。

それは、自分欲しか満たしていないんだよ。

大事なのは相手欲。相手欲なんだよ。

相手が求めていることを想像するんだ。

イメージしろ。

そのイメージが相手の欲しいものと合致していればハマるんだよ。」

「なるほど。」

「でも、さっきの書籍も相手の興味を引くことは、たやすいはずだ。

どうすれば自分ごとになるかを考えればできるさ。

書道であれば結構簡単じゃないかな?

例えば

・小学生の時に書をやったことがある
・字が上手くなりたいと思ったことがある
・字を書くのが面倒くさいと思ったことがある

こういったつかみは100%相手を自分ごとにすることができる。
そして、そこから君の大好きな書家を3人あげてみる。
これってマジックナンバー3だよね。
その中で100%大好きな空海について述べる時にも空海について質問を交えるといいね。

・日本で一番有名な書家
・弘法も筆の誤り
・高野山

もちろん、マジックナンバー3を使わずに興味を示すやり方もある。

漢字はアジア圏でも限られた地域で使われている言語だから、そこから入ってくのも良いね。

私たちが普段使っている文字造形と大きく異なる文字造形のものを見せてその違いから興味を引いてみるというのもあるだろう。

そして、実際に書いてもらうのもやり方としてあるよね。

例えば、「海」という漢字を書いてもらう。

みんなが書いてもらってからこちらを見せる。

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これで「海」と書いてある。

サンズイは「水」を表すから「毎」の下に「水」で「海」を表現している。

どうかな?

相手の感情をデザインする。

そのやり方はアイデア次第でいくらでもある。」


「勉強になります。」


慎吾は真摯に受け止めた。

佐々木は少し身を乗り出して聞き入ってしまった。

藤井は組んでいた腕を解いてメモを取っていた。

土屋はプレゼンの表現というものはデータの見せ方と同じであることを実感していた。

何を見せたいかが明確でなければ、データもただ単に並べただけのものになるからだ。

丸山が続けた。

「が、興味を示してもらうだけじゃ足りない。

興味を示した上で、その本を読みたいと思わせ、さらに買ってでも読みたい。借りてでも読みたいと思わせる。

行動させたいわけだ。

行動させるのは難しい。

でも、行動させなければ意味がない。

ではどうするか。

どうすれば行動を起こすように持っていけるか。

今回は書籍だ。

ということは、それを読むことで自分にメリットがあるかどうかは大きなポイントになる。

ここで相手欲が重要になるわけだ。

そこで、これは覚えておいてほしいんだが、書籍からは2つの得られることがある。

それは、

・生きる上で力になること
・生きやすくなること


この2つに当てはまるようなことが伝えられるかどうかだ。

最初の生きる上で力になることは、励まされたり勇気づけられたりすることだ。

そしてもう一つの生きやすくなることは、情報や知識、ノウハウといったことで、それを知ることで生活にいかされること。

君が進める書籍で相手欲をどうすれば満たせるかを考えてみてくれ。」

「はい。わかりました!ありがとうございます!」

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慎吾が丸山部長の話を聞きながらずっと考えていたことが一つあった。

それは、どこまでも相手目線で考えることの重要性である。

自分が言いたいことを考えているのは当たり前で、
その上さらにそれを受け取る相手になってみて考えることができなければ伝わらないということだった。

それを行うためのテクニックは本当にたくさんあるということ。

また、それらを駆使するためには偏った目の前の知識や情報だけでは広がりがなく、使えないということ。

プレゼンノックを通して気付くのは、あまりにも狭い自分の視野とあまりにも低い視座だ。

一つだけプラスなことを述べても良いならば、これらを前向きに捉える気持ちが重要で、それが実践できてきたこと。

早く丸山部長のおすすめの書籍が知りたい。

気になって仕方がなかった。

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「それでは、私のおすすめの書籍3冊を紹介しようかな。」

丸山部長がカバンから書籍をおもむろに取り出した。

「今日、紹介する3冊は、今のみんなに役に立つかも知れないし役に立たないかも知れない。
それは、一生かかっても同じだ。
そしてもう一つ。
今から紹介する書籍は、長い年月を経て今の時代まで読み継がれている。
その意味を想像しながら聞いてほしい。

では、まず最初の書籍だ。

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『風姿花伝』

世阿弥が後世の能を担う者へ残したものだが、私にとってはビジネス書であり、プレゼンの本だ。
芸をものにする上で、初心忘るべからずの言葉にあるように、その時、その役職において初心というものをしっかり意識することの重要性を教えてくれた。
朝、目が覚めればその日の自分が人生の中で一番未熟な自分であることに変わりなく、だからこそ謙虚に初心を持って日々を積み重ねる。
それが極めていくことだと解釈するようになったのも、この書籍が伝えてくれたことだった。
今の業務が3年以上続いている人は手をあげてみてくれ。

ふむ。

わかった。

ありがとう。


内藤、佐々木、土屋、藤井の3人は、よければ一度読んでみてくれ。

きっと今の自分に響く文章が、必ず一つは見つかるはずだ。

絶対に後悔させないから、読んでみてくれ。


さあ、そして2冊目だ・・・。」


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こうして、丸山部長の3冊が紹介されていくのだが、それは別の話で触れておきたい。

かくして、マーケティング部の課長メンバーが全員で参加するプレゼンノックが始まったのである。

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