生存確率を上げるM&A起業

最近、起業した直後の会社を「スタートアップ」とよく言いますよね。また日本人得意の和製英語的な意味で使ってるのかと思いきや、そうでもなくて、Startup companyというのは、スケールすることを前提としたベンチャー企業と、海外でもほぼ同じ意味合いで使われているようです。

よく、企業の生存確率は5年後15%、10年後6.3%、20年後は0.3%なんて言われます(国税庁調査)。私はゼロから会社を立ち上げて、四苦八苦しながらも20年継続しましたので、なんとそれだけで0.3%に入るということです。すごいですね、大したことやってないのに。

でも、それもこれまで立ち上げた4社のうち1社の話です。あとの1社は7年程度(残り2社は継続中)。いろいろと事業を統廃合しながら、本業のコンサルティングを行っている状況です。

と、私の状況はさておき、スタートアップはそれくらい厳しいものがあるのは確かです。ゼロから立ち上げる「ゼロイチ起業」も、既にある事業を引き継ぐ「事業継承」も両方経験し、M&A事業もやっている私は、このゼロイチがいかに生存確率の低いものであるかをよく知っています。

その確率を上げるのがM&Aです

買収起業完全マニュアル

最近、興味深い本を読みました。

「買収起業」完全マニュアル ベンチャー立上げリスクを回避する「新・起業法」

原題は「Buy Then Build」で、ゼロからで事業を立ち上げるよりも、すでにある会社(もしくは事業)を買い取って、その土台の上に立ち上げていくという考えです。スタートアップの大半(この本によると93%)が失敗するなかで、買収起業によって成功確率を上げていくことを目指しています。

私はM&Aアドバイザーですが、コロナを契機に一気に増えてきているのが中小・個人規模の売り案件で、今後はますます加速していくでしょう。

人口減少、超高齢化の難しい時代を迎えるにあたって、M&A、特に中小M&A(個人事業者も含む)が今後活発になってくるであろうと見込まれていたものが、コロナで一気に押し寄せてきた感があります。人口減少なんかも、20年前倒しで未来がやってきたとも言われますよね。

そのため、これを後押しする税制や、M&A時に個人保証を外す制度、あるいは表明保証違反(表明した事実とは違ったことが発覚すること)による損害を防ぐ保険まで登場しています。いわば、M&A推進は国策なのです。

事業計画を元に投資家を回り、何十件と断られながらも何とか資金調達し、ゼロから事業を立ち上げるのは、なんとも面白く、同時に苦しく厳しいことでもあります。ベンチャービジネスには、それでも挑戦する価値はあります。世界の課題を解決し、世界を変えることがスタートアップの共通したミッションで、この存在がなければ社会は発展しません。

いま私達が便利な生活を享受できているのは、このようなリスクテイカーがいるからです。成功した一部の人だけでなく、その裏で失敗した膨大なチャレンジのおかげで、我々の日常生活が成り立っています(だからこそ、個人保証のようなおかしなリスクは背負う必要がないというのが私の持論ですが、それはまた別の機会に)。

しかし、起業とはその限りではないことも事実です。特に40代~50代以降の起業は、体力的にも時間的にもM&A起業が最も適切だと思います

300万円で小さな会社を買いなさい

少し前、こんな本も話題になりました。

サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい 人生100年時代の個人M&A入門

これは実にわかりやすくM&Aについて書かれている本で、サラリーマンの副業であっても、独立する人であっても役に立つ考え方だと思います。

これまでやっていた事業の「のれん分け」ならまだしも、信用も実績もゼロの状態から事業を立ち上げるのは、結構な時間とエネルギーが必要です。その間、食うに困らない資金はもちろん、折れない心も必要です。でも、様々な現実に心が折れそうになることなんてしょっちゅうで、そんな厳しい確率を上げるために、最初から実績のある会社や事業を買い取るという選択肢です。

少し「そんなにうまくはいかんでしょ」というくらい、簡単に書いている感はありますが、それも著者はわかった上で、ちゃんと断りを入れながら書いています(ただし個人保証に関しては、ここに書かれているほど簡単ではないですが)。

実際の事例も載っていますので、起業を考えている人はぜひ読んでみてください。

生存確率を上げるためのM&A起業

中小企業の倒産は、物理的な退場ではなく、ほとんどの場合が心が折れた結果です。特に手形決済などをしていない場合、強制退場(メイン銀行の口座凍結など)のケースは少ないでしょう。

やってもやっても、お客さんが増えない。なかなか実績が積みあがらないなかで、資金が尽きそうで銀行に行くと「実績がない」と言われ、わかっとるわい!と。そんな経験の一回や二回は誰でもあるのではないでしょうか。でも、貸す側の立場で考えると、そりゃ貸せんわなと納得したり。

銀行って、会社にとっては大切な存在ではありますが、信用すると痛い目に合う相手でもあります。私はこの手の話は山のように事例を知っていますが、基本、どれだけ担当者や支店長がいいこと言ったとしても、相手はこちらを信用はしていません。何かあると、一夜にして別人のように掌を返します。彼らも、よほど社内で追い込まれるのだろうと思いますが、その変わり身は銀行員の出世のための必須スキルだと思います。

ただでさえ孤軍奮闘戦っているときに、そういう経験をすると、もう心が折れるんですね。それが、この生存確率の低さの一因だと思います。

閑話休題。そんな生存確率の低い起業において、その確率を上げることができるのは、すでにある会社や事業を買収することです。(ここで「会社や事業」と分けているのは、M&Aには会社を買い取る「株式譲渡」と、その事業のみを買い取る「事業譲渡」の2種類があるからです。)

例えば、自己資金300万円で起業するとしましょう。最初は自宅オフィスなので家賃は不要。でも、当然会社登記に最低でも数十万円、電話、(必要かどうかわかりませんが)コピー機、自社サイト、場合によっては広告費と、そう考えたら300万なんて右から左のムーディー状態です。

であれば、上記の書籍にあるように、300万(これはもちろん「手が届く範囲の金額」という意味のメタファーです)ですでにある会社を買い取る方が、立ち上げはスムーズにいく可能性は大いにあります。

もちろん、債務超過で膨大な借金+個人保証もあり、多額の役員借入とか変な株主がいる(表面上わかりにくいですが)とか役員の私的流用が酷いとか、その割に売り上げの基盤がぜい弱とか社員の定着が異常に悪いとか、そんな会社もたくさんありますから、何でもかんでもというわけではありません。ポジショントークではないですが、そこはアドバイザーを付けるのが無難でしょう(成約ありきのアドバイザーはお勧めしませんが)。

変な会社をスクリーニングして、自分がやりたいこととマッチする、シナジーをイメージできる会社があれば、ぜひ検討してみてください。今は、バトンズやトランビ、ビズリーチサクシードなど、M&Aのプラットフォームもたくさんあります。まずそこに会員登録して、大量にある売り案件を眺めてみてください。M&A起業は、普通に選択肢としてありだなと実感できると思います

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