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散髪と盆栽

日曜に、夫の髪を散髪した。
初めて夫の髪を切ったのは、はっきりとは思い出せないけれど、もう四年近く前のことだろうか。

はじめのころは「散髪代を節約して、そのお金で釣り道具を買いたい」という理由だったと思う。けれども今では、私がカットする髪型が気に入っているのだと言ってくれる。

散髪と言ってもバリカンでばりばりと、伸びた髪を一掃するだけ。ただまったくの坊主頭は嫌だというのでトップのあたりの髪だけを少し残す。何というか、栗の先がチョンと尖っているような感じである。

私としては、一定にばりばりと芝刈りでもするみたいに刈ってしまいたい。けれど、夫のわずかばかりのオシャレを無視するわけにもいかないなと思い、バリカンを駆使し、集中する。

手元が狂うと一瞬で丸刈りへの道が拓けてしまうため、かなり難しい。もう何年もやっているとはいえ、二、三ヶ月に一度だし、手の感覚も何もあったものじゃあない。ある程度のところまでは3ミリの長さでブイィンと何も考えずにバリカンを使えばいいだけなのに。

夫の髪を散髪することは、私にとって大仕事でもあるため、散髪をすると決めた日に他の予定は入れられないのだ。

実家に帰ると、姉が父の髪をバリカンで刈っていた。私が使っているものとまったく同じ機械が使われていて、少し不思議な気持ちになった。

思えば、私も姉も、幼いころには父に髪を切ってもらっていたのだ。
父は散髪用のハサミを何本か揃え、いつも玄関先で切ってくれていた。
休みの日は昼からビールを飲む父も、「手元が狂ったらあかん」と言って、散髪をお願いした日にはビールを飲むのを控えていたことを思い出した。

いま思えば、父の散髪は素人ではあるけれど、割と本格的だったように思う。なぜなら私はショートカットにしてもらっていたし、中学を卒業するまで父に髪を切ってもらっていた。お父さんに髪を切ってもらっているというと「めっちゃ上手やな!」と驚かれた。少なくとも、髪型が変だと馬鹿にされた覚えはない。私自身、何度か美容院に行ってみたのだけれど、髪型に納得できないし、あれこれ話しかけてこられるのもしんどかった。父に切ってもらう髪型を気に入っていた。

「高校生になったら、美容院行って。さすがにお父さん、責任持たれへん」年ごろの娘の散髪という重圧を解放してほしいといわれ、高校からは美容院へ行くようになったのだけれど。

父にとって、私の髪を切ることは「盆栽の手入れと一緒や」と言っていた。盆栽は切っていい枝や葉の場所が限られている。ばっさりと切り落としてしまうと見栄えがものすごく悪くなる。かと言って、もっさりと茂らせているのもだめ。自宅の庭先でちょっと楽しんでいる程度だったけれど、父は真剣に剪定していた。

散髪と盆栽では何も共通していないじゃないかと思っていた。けれど、集中力を高め、目の前の対象物をきれいに仕上げる、という点では同じなのかもしれない。

最近私は盆栽に興味が出始めているのは、もしかしたら夫の散髪のせいかもしれない。盆栽のワークショップを申し込もうか、今とても悩んでいる。

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