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小説のおかげで、いのち拾いした話。

「小説なんて、読むだけ時間の無駄じゃないですか」

ショックだった。

思いもよらない言葉に、心がぎゅっと硬く縮こまってしまった。次に用意していた言葉を、思わず飲み込んでしまい、胃の中で、ぐるぐると金魚のように動き回っていた。

この会話の流れは、本当にたわいのないものだった。

職場の社長とデザイナーのHさんとで「休みの日はどんなことをして過ごしているか?」という会話の中でのできごとだった。社長には、お子さんがふたりいて、それぞれのお稽古ごとの発表会やら何やらで、休日はいつも終わってしまう、という話をしていた。

「ふたりは、休みの日は何をして過ごしてるの?」と、社長がHさんと、私に話を投げかけた。私は家事をしたり、ネコと遊んだりしてるとあっという間に時間が経ってしまう、と笑いながら言った後に、あとは本を読んだりしますかねぇ……、とまでつぶやいたところに、Hさんが「ボクも本読んだり、DVD観たり、ですかね」とかぶせるように話し出した。そこで、社長が「どんな本を読んでるの? 小説とか?」と、聞いたときに、Hさんが冒頭の言葉を発したのだった。

「小説なんて、読むだけ時間の無駄じゃないですか。だから、もっと勉強になるような、例えば時間をうまく使うやり方の本とか、そういう本しか読まないです」時間をうまく使うための本を読む時間は有効活用として認められるんだな、と私はとんちのようなHさんの答えに対して「そうなんですね」と、愛想笑いを浮かべた。本当に言いたかった言葉を、ぐっと飲み込んでしまいながら。

私には、命を助けてもらった小説がありますよ、と。

命を助けてもらった、と言うと大げさに聞こえるかもしれない。けれど、小説のなかで語られていたある方法が、結果的に私の命を救ってくれることになった。

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