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少年よ、おおいに悩め。

「こっちの五個入りのやつで、良くね?」

何やら、がやがやと騒がしい声が響いていた。月曜日の夕方、駅ビルにある本屋に立ち寄ってから帰宅しようとしたときのこと。

コージーコーナーの一角に、男の子たちが六、七人で集まってワーワーと議論している。「男子」というよりも、まさに「男の子」たち。小学五、六年生か中学一年くらいにしか見えない。中学二年だと、多分もうすこし、カッコつけたいんじゃないかと思う。髪型をちょっと工夫してみたり、ちょっとだけオシャレに興味が出てきたり。けれど騒がしい彼らは、まだたっぷりと良い意味合いでの幼さを纏っていた。母親が作ったように見えるナップサックを背負っている子の姿もあった。

お菓子屋さんの前で必要以上に騒いでる姿を見て、はじめは「なんだかうるさいなぁ」と感じたのだ。けれど、ある男の子の言葉が耳に届いたとたん、ついニヤッと笑ってしまった。

「でもこれさー、お返しショボいって言われそうじゃね?」

そうか。あの子たちはホワイトデーのお返しを買いにきているんだ。家族以外の人から、チョコレートをもらったお返し。きっと始めてのことだったに違いない。いま発言した男の子はもしかしたら、気になる女の子からもらったのかも知れない。ちょっとだけカッコつけた発言だったから。

コージーコーナーのクッキーや焼き菓子のショーケースの前には男の子たちがあーでもないこーでもないと、騒ぎ立てている。お店の人も、アドバイスしていいものか、迷っている様子。ケーキを買いに来るお客様の対応をしながらも、男の子たちのことが気がかりで仕方ないようだ。

私は横目でチラチラと様子を伺いながらも、素知らぬふりをして本屋へと向かっていった。

選び疲れて手っ取り早く決めちゃいたい男の子もいれば、渡したときに喜んでほしいという男の子もいて。
「お返しなんて、あげなくていいんじゃね?」という議論も、おそらく何度かは交わされたに違いない。

母親に言われたから。めんどくせーけど、仕方ないか。もらったものはお返ししなきゃ。女子に嫌われないように。気になるあの子の笑顔がみたい。

男の子たちの心の中にあるものは、みんな違っているだろう。

悩めばいい、悩むがいい。

女の子たちだって、男の子たちにチョコレートをあげるのに、覚悟を決めてあげたのだから。決死というと大げさかもしれないけれど、そのくらいの勢いだ。

おおいに悩んで、ホワイトデーのお返しを選んでほしい。

そもそも女の子たちが気に入るものなんて、千差万別。同じものあげたとしても「かわいー!」となるかもしれないし「ショボッ」と言われるかもしれない。

だけど、何をお返しされたとしても、きっと女の子は嬉しい。けれど、男の子の前では「ふーん、ありがと」とかいってつっけんどんな態度をとってしまうかも知れない。もしくはキラキラと目を輝かせて「ありがとう」と言ってくれるかもしれない。

女って何を考えているか分かんねー、とか言いながら、少年たちよ、うろうろと悩み続けてほしい。悩んだところで、答えはでないし、年を重ねたところで正解は見つけられないのだけれども。

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