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心のぬめりをとるために風呂場の掃除をしようじゃないか。

気がつかないうちに、じっとりとした感情や疲れがたまっていることがある。本当はいろいろなシグナルが点灯しているのだろうけれど、見て見ぬ振りをしているのだろう。

お休みの日に、意識してそのじっとりとしたものを吐き出したり、片付けたりできればいいのだけれど、なかなかそうもいかない。お休みの日はお休みの日で、猫を病院に連れていったり、町内会の行事に嫌々ながらも参加したりしなきゃいけない。疲れを吐き出すどころか、余計に疲れたり、不安にさいなまれたりする。

私自身は、疲れがたまり始めると部屋の中がぐちゃぐちゃになってくる。自分のことだけでいっぱいいっぱいになって、身の回りのことや、片付けをするという気力が湧いてこないのだ。この週末も、ぐちゃぐちゃになっている部屋を見て「ああ、疲れてるんだなあ」と思い知った。

めちゃくちゃ疲れているときでも、「これをやればちょっといい気分」になる掃除がいくつかある。

まずひとつは、除湿剤の取り替え。室内の湿気をたっぷりと吸い込んで、たぷたぷと水を蓄えた除湿剤を一斉に取り替えるのだ。
我が家は海辺に近いことと、夫婦ともに働いているため部屋を閉め切っていることが多い。そのため、どうしても風通しが悪くなり、湿気もこもりがちになる。除湿機を使うこともあった。けれども、留守中に猫がコンセントをかじってしまう恐れがあった。万が一のことを考えると怖くて使用しなくなった。そうして、我が家にはクローゼットや、開閉の少ない部屋には除湿剤がいくつも置いてある。前回いつ頃取り替えたかも思い出せないけれど、部屋のあちこちにある除湿剤にはたっぷりと水を蓄えていた。

除湿機のなかに蓄えられた水をじゃあっと捨てて、新しいものを設置する。ただそれだけのことだ。けれども、水を捨てる瞬間に、自分の中にあった湿っぽく、ぐちゅぐちゅとした感情もじゃあっと流してしまえるような気持ちになる。いつの間にか、こんなにも溜まっていたんだなと思いながら。同じ動作を何度も行なっているうちに、自分の中にたぷたぷと溜まっていたものが空っぽになっていくのだ。そうして、新しい除湿剤のフィルムを剥がし、さまざま場所にセットしなおす。心の中まで一新されることはできないけれど、少なくとも、少しは気楽になっている。

もうひとつは、カビとり洗剤。普段からこまめに掃除をしていないために、風呂場のパッキンやタイルの目地などにカビが発生してしまう。ちょっとこすれば取れる、というものでもないため、やはり休みの日に薬剤を使用して取らなきゃいけない。

専用の薬剤を風呂場に持ち込み、たっぷりと注ぐ。風呂場の隅には、いつの間にかどす黒いカビや汚れがぬるりとこびりついていて、まるで私の心の底のようにすらみえる。薬剤は刺激が強いため、使用する際には手につかないようになど気をつける。けれど、注ぎ終えたならあとは放置するのみ。ただ時間が過ぎるのを待っているだけで、ピカピカの風呂場が待っているのだ。そう思うと、過ぎていく時間に「三十分あれば、あれもできそう。これもできそう」と、よくばって他の掃除をしたりもできる。トイレ掃除をしたり、ゆでたまごを作っているうちに、いつの間にか風呂場はきれいになっている。私自身がしたことは、ただ薬剤を使用しただけ。それでも、ちゃんと掃除をした気分になるし、風呂場はだいたいキレイになっている。

正直言うと、どちらも全然たいしたことじゃない。薬剤が力を発揮しているだけで、私自身はフィルムを剥がしたり、適当に薬剤をまいたり、水をかけてながしたり、溜まった水を捨てたりしただけだ。

そんな簡単なことだけで、スッキリする私もおめでたい。けれど、溜まっていた水分やぬるりとしたカビをキレイにしたとき。目に見えてキレイになる瞬間に、自身のちょっとした疲れや心のぬめりすら流してしまえるような気になる。

本当に単純だけれど、単純な性格で良かったなと改めて思う。と、同時に除湿剤とカビとり洗剤にも心をこめてありがとうと言いたい。

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