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「カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で」を読んで。

「カウボーイって、どういう仕事をするのだろう?」わたしがその本を手に取った理由のひとつは、まさにそれだった。

カウボーイ。イメージとして浮かび上がるのは、テンガロンハットをかぶっていて、皮のベストを着ていて、ウエスタンブーツを履いている。投げ縄をして牛を捕まえたり、荒ぶる牛の背中に乗って、競い合っている。

わたしの貧相な思考回路では、この程度しか思いつきもしなかった。この本を読むまでは。

「カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で」という本を手に取ったのは、2019年4月7日に、惜しまれながら閉店したスタンダードブックストア心斎橋店だった。

2018年6月22日にスタンダードブックストアで行われた、『迷子のコピーライター』刊行記念 日下慶太さん×田中泰延さん×遠山芳実さんのトークショーを聴きに行った。日下さんの本を購入しようとレジにいる店員さんに聞きにいったところ、本は売り切れてしまったという。ちょうどレジカウンターに平積みされていた「カウボーイ・サマー」を購入することにした。


「カウボーイ・サマー 8000エイカーの仕事場で」の著者である前田将多さんは、noteでもカウボーイに関するコラムをいくつか投稿されている。


本を購入したのはいいけれど、なかなか読もうという気持ちにはなれなかった。カウボーイはわたしにとって、すごく遠い存在のような気もしていたし、男くさい、荒くれ者の世界だろうかと、ひどい固定観念を持っていた。

手に取って、ペラペラとページをめくってみると、「DAY2 カウボーイって今でもいるんですか?」という一文が目に入った。その1ページくらいを丸々読んで、わたしは自分の無知さというか、なんにも知ろうとしない姿勢を少し恥じた。そうして、「DAY1 ジェイクという男」から、改めて読もうと決めた。

おそらく、文字だけでは理解できなかったと思う。それくらい、今のわたしの暮らしと、カウボーイの仕事ぶりはかけ離れていた。

目の前に広がる一面が広大な牧草地で、山も何もなくって、地平線まで続いている。

こんな景色を、わたしは今までに見たことがない。けれども、カウボーイはこう行った場所が仕事場であり、生きていくと決めた場所なのだ。

読み進めていくと、現在のカウボーイは畜産の知識はもちろんのこと農業的な知識も、ものすごく必要だ。また畜産・農産に関してそれぞれの用途ごとに必要な機械に関する知識も必要になってくる。誰かに修理をお願いする前に、自分で修理しなくっちゃ、到底仕事は進まない。あたり一面の草を刈り、ヘイベイルとよばれるひとかたまりの牧草を何個も何個も作らなくっちゃいけない。自然相手の仕事だから、基本的に仕事が終わることはない。

読んでいる最中に、ずいぶん前に学校で学んだ「北米大陸の農業」などがちらりと頭をかすめた。「春小麦地帯」とか「とうもろこし地帯」などが地図上ではっきりと枠組みされていて、「こんなに広い地域が同じ食物を植えているのだろうか?」と不思議に思ったけれど、この書籍の中でときおり紹介される写真を見ると、「見渡すかぎり、牧草地」と言えるような場所ばかり。大げさでもなんでもない。8000エイカーについていえば、正直なところ、いまだに想像がつかない広さでもある。

カウボーイの仕事は、カレンダー通りのものではない。とはいえ、土曜日や日曜日には、お祭りのようなイベントもある。カウボーイという言葉からイメージされやすいロデオや、ローピングの大会もある。キャンプに出かけたり、朝の時間を少しゆっくり過ごせることもある。趣味でしょっちゅう釣りに出かけていらっしゃる、ハーブさんというかたもいたけれど、それは「今日の仕事はここまでだな」と、自分で仕事に対する区切りをつけないとできないことだろう。

カウボーイの仕事は、自分で見つけて、動かなくちゃいけない。誰かに「締め切りいつまでで、書類提出して」なんて言われることはない。作業の締め切りを言い渡す相手といえば、季節だけだろう。この時期までには、草刈りを終えなくっちゃいけない。この時期までに準備しておかないと、冬に間に合わない。そうして、先々のこと、一年二年といったスパンではなく、子供や孫の世代まで続けていけるようにという考え方で、仕事を進めていく。

本の後半に「カウボーイは職業か?」という項がある。わたしが貧弱なイメージをしていたような「カウボーイ」的存在は、今はもう存在しない。客観的に、そして歴史をたどりながら「現在におけるカウボーイとは何を指すか」が書かれていた。また、そのあとのページに「カウボーイのビジネス」、どのような形で収入を得て成り立っているのかもリアルな数字とともに書かれていた。


偶然手に取ったとはいえ、この本を読めてよかったと思う。読みやすいけれど、「旅行記」と言えるほどには単純な読み物ではない。無知すぎるわたしに取って、カウボーイの歴史だけではなく、その土地に住まう暮らしや文化を教えてくれる本だった。

少なくとも「カウボーイって、今でもいるの?」という疑問は、もう持つことはないだろう。カウボーイは、今も、いる。








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