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ボンタンアメとオブラートと糖衣錠

幼いころ、ボンタンアメを食べることがあった。どうやら母が好きだったらしく、時々購入していたらしい。一箱全部を母ひとりで食べるには多かったらしく、「ひとつ、食べ」と言って手のひらにのせてくれた。

しかし、わたしはボンタンアメが苦手だった。正確に言えば、ボンタンアメを包んでいるオブラートが苦手だった。

オブラート自体、味がするわけじゃない。むしろ、その何も味がしないところがビニールだかセロファンだかをそのまま食べているような気がして、ちょっと気味が悪かった。

オブラートがボンタンアメから離れて、べろりと口の中にくっつく感じがするのも嫌だった。

こどものころに、とても飲みにくい粉薬を処方されていたことがあった。「オブラートに包めば飲みやすいですよ」と医師に言われたけれど、オブラートを口に入れることのほうが嫌だったので、むりやりその粉薬を飲み込んでいたことも覚えている。

***

下書きはここまでで終わっている。この続きをなんて書きたかったのか、全然覚えていない。オブラートに包んで話すことが苦手、という方向にもっていきたかったのかもしれない。けれど、オブラートはわりとすぐに溶けてしまう。オブラートに包んだ話は、結局すぐにむき出しの状態になってしまうんだろう。

先日テレビを見ていたらダウンタウンの松本人志さんが「糖衣錠にくるんで話す」といった文脈のことを話していた。

糖衣錠も口に含んだ瞬間はもちろんのこと、うまくごくんと飲み込んでくれたら問題ない。けれど、口の中で転がして、うっかり噛んでしまおうものなら、もう吐き出すという一択しか残されていない。正露丸糖衣錠を飲んだ時の思い出が、にわかによみがえる。なんなら、正露丸の臭いまでも。

話をする時に選ぶ言葉というのは、なかなか難しい。精神的に落ち着いているならば、あまり波風立たせないように話すように気を付けている。けれど、思わず口から出てしまった言葉には、結構な割合で、あとから「しまった、言い過ぎた」と思うことがある。オブラートも糖衣錠もなんにもない状態で口の中に投げ込んでしまったようなものだろう。

相手が吐き出してくれればいいけれど、ごくんと飲み込んでしまって、消化できずに腹の中でしくしくと痛ませてしまわないように、気をつけなくっちゃと肝に銘じたい。



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