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私にとってナマコだった、グレープフルーツの話

「はじめて食べた人って、勇気あるよねー。なまこ とかさ」こんな会話したこと、ありませんか? 私はあります。何度か。

知らない食べ物を口にするのって、ちょっとした勇気が必要だよね……と、考えることがあり、ふと思い出した記憶がありました。

小学生のころのことです。
母が親戚の家のおみやげとしてグレープフルーツを、いくつかもらってきました。

姉も私もグレープフルーツは大好きで、夕食後のデザートとして食べよう! と喜んでいたんです。

しかしグレープフルーツを半分にカットしたとき「いやっ、何やこれ?」と、小さい叫び声をあげたんです。普段、そんな驚いた様子を母は見せないので、姉と私は心配になりました。
「お母さん、どうしたん?」と母のそばにいくと「見てみ、これ。腐ってるみたいやわ」と、グレープフルーツの断面を見せてくれました。

赤い色味の果肉がそこにありました。

今でこそ、それは「ピンクグレープフルーツ」なるもので、決して腐っているわけじゃない。食べられるって、知っています。

でもその当時は、母も姉も、当然私も知りません。グレープフルーツは薄い黄色の果肉しかないんだと信じていました。ブラッドオレンジより、やや赤味の強い、不気味な風貌を見たとき、気持ち悪い〜という思いが頭の中でぐるぐると回っていました。

「あー、なんか腐ってるなあ。ほかのも、切ってみたら?」姉と私は、いくつかもらってきたグレープフルーツを切ってもらうことにしました。が、しかし。

おみやげのグレープフルーツは、ぜーんぶピンクグレープフルーツ。
果肉が赤いグレープフルーツがあるなんて、知らない私たち家族はショックでした。

「いやや、なに? もらってきたやつ、全部腐ってる!」母は、かなりショックのようでした。痛んでいるにおいは、しない。切った果肉のすべてが見たことのない色。
もしかして、こういうものなのかな? という議論もしましたが……。
「いや、でもこんなん気持ち悪いし、食べられへんやろ……」
そうして、いくつも切ったグレープフルーツは、食べられることもなくビニール袋に入れられて、硬く封をされ、二度と開けることはありませんでした。

今でも思い出話として「ピンクグレープフルーツ事件」が語られることもあります。相変わらず母は、「ピンク色のグレープフルーツは、ちょっと食べる気せんわ」と眉をしかめます。

我が家にとっての「なまこ」的存在のピンクグレープフルーツ。

このほかにも、お土産なんかでいただいた物は「なまこ」的存在になることがありました。

母は、いろんなものをもらってきます。どんな経緯があったのかは、わからないのですが「ザーサイ」をもらってきたことがありました。ただ「持ってかえりー」と言われて、紙袋にポンと入れてもらったそうです。母は、そのときにあまり確認しませんでした。

ザーサイ。
我が家の食卓では、並んだことがありません。
中華食材で、おつまみっぽいもの、というぐらいの認識しかありません。

細かくスライスされて瓶詰めやパック状になっているものしか、私たちは知りません。

しかし、いただきものの封を開くと、ゴロンとした茶色いカタマリが出てきました。
「なにこれ?」しかも、結構くさい。

ザーサイはお漬物の一種ですから、くさいというか、独特の匂いがあるのは仕方ありません。でも、母は嗅いだことのないにおいを発し、おそらく本格的な中華食材としてのカットされる前のザーサイを拒否しました。

「あかんわ、これ、痛んでる」
そういうと、またビニール袋に戻したのち、二重にも三重にもかさねて袋に入れていました。開けるな! キケン! という具合に。

そのいただきもののザーサイは、日本のお漬物でいうと、ぬか漬けの ぬか がたっぷりと着いた状態でした。良く洗って、細かく刻んで食べれば良かったのです。

でも、当時はそんなこと知らないし、一瞬で拒否をした母を責めることなんかできません。

ふたつの食材とも、あとになってから「あれは痛んでない、食べられるものだ」と気付いています。けれど、はじめて目にしたものや違和感を感じたものを、どうしても受け入れ難かった。口の中に入れる、食べるというのは生きていくうえで必要なこと。食べられるか、食べられないかの判断はその人自身に任されている部分が多いです。

普段口にしない、ほかの国の料理だとか、日本のなかでもその地域だけで食べられている郷土料理なんかもそうですが、一般的に出回っていても「知らない」というだけで、受け入れられないことってあるんですよね。まるで未知との遭遇のように。

いまだと、知らない食材に出会っても、たぶんすぐにgoogle検索して「ピンクのグレープフルーツもあるよ」とか、分かるんだろうなと思います。

ただ、口に運べるかどうかは、また別問題だよな、としみじみ思い返しました。


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