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思い出のなかにある景色

家族みんなで旅行に出かけたのは、小学生のころ、たった一度きりだ。
その旅行すらも、目的地は覚えているけれど、どこで何をしたとか、お土産に何を買ったかの記憶はおぼろげにしかない。

ただ、はっきりと覚えているのは、ホテルの部屋から見えた景色。
視界のすべてが海と、空と、あちこちに散らばる島々だった。

窓を開けていないのに、波の音がうっすら響いてきて
きれいやなあと思いながらも、どこか少し怖かった。

「お父さんな、夜ご飯は海鮮の船盛が良かったんや」と、
こんなところに来てまでぶつぶつ文句をいう父が少し嫌だった。
けれど、メインディッシュとして出された「鴨肉のオレンジソース添え」をしげしげと見つめていた。
くだもののソースなんて聞いたこともないし、お母さんが作ったことのない料理。
みんなで頬張って、「美味しいなあ」と笑いあった。

そのふたつの思い出は、今も胸の特別な場所にしまってある。

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間詰ちひろ
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