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令和5年1月28日(土)宝生能楽堂で『鞍馬天狗』を観てきました

お能を拝見するのは何年ぶりでしょうか。
コロナ禍に突入する前、千駄ヶ谷の国立能楽堂に行ったきりなのでかなり久しぶりです。
能舞台を目の前にして「やっと戻ってこられた」とうれしさが込み上げてきました。

ずいぶん前になりますが、観世流の能楽師の方が講師の謡本講読講座で学んでいた時期があります。
古文の授業を懐かしく思い出しながら、能面の実物を見たり、少しばかり謡いの実技も行って、休憩時間には美味しいスイーツを戴きながら受講生みんなで交流する、楽しく充実した講座でした。

講座の流れから自然と観世流を拝見する機会が多かったのですが、国立能楽堂では様々な流派の演目がかかるので宝生流を拝見するのは初めてではありません。

でも「宝生能楽堂」にお邪魔するのは初めてだったんですよね。水道橋の駅を降りてすぐの場所。
千駄ヶ谷の国立をはじめとして、鎌倉、渋谷、矢来などいろいろな能楽堂へ足を運びましたけど、ココが一番アクセスがいい。駅から近くて道に迷う心配はありませんでした(^^)

宝生能楽堂入口
中正面席(自由席)からの眺め
橋掛りもバッチリ観れました


一月夜能 〜語り部たちの夜〜「鞍馬天狗」

■1/28(土) 17:00開演 宝生能楽堂
朗読:大塚明夫さん(脚本:いとうせいこうさん)
能:(シテ)辰巳満次郎先生

『夜能』と題されたこのシリーズは、人気声優さんの朗読と共に能を楽しむ、というもの。
能を楽しむのが初めての方でもわかりやすい構成になっています。

この日も、大塚明夫さんの朗読「鞍馬天狗」の後、いとうせいこうさん、宝生和英さん、大塚明夫さんの鼎談を挟んで、能「鞍馬天狗」、続いて仕舞「車僧」が披露されました。

いとうせいこうさんの朗読脚本は、人物、情景共に鮮やかに浮かび上がりとてもわかりやすかったです。

衣裳を身につけた大塚さんが橋掛りから舞台へ進み台本を手にされての第一声で、すでに舞台上には鞍馬山の景色が見えました。
雅楽の演奏も流れる中、深みと艶のある大塚さんの声が舞台上に朗々と響き、鞍馬山の美しい桜が咲き乱れて…

2月にも、細谷佳正さんの朗読、シテを内藤飛能さんがなさる同じ演目の夜能が行われるのであらすじ等は書かずにおきますが、お話の中で「実はこの人の正体は」が明らかになる箇所では大塚さんの衣裳替え(豪華なお衣裳でした)もあって、耳だけでなく目でも朗読をたっぷり楽しめました。

鼎談では、流派によって詞章の解釈が異なる箇所があるというお話や、物語のテーマの一つでもある師匠と弟子の関係について、仕事と向き合う姿勢、などの興味深いお話も繰り広げられました。

進行役の宝生和英さんは、異なるジャンルで活躍中のいとうさん、大塚さんのお二人共に話しやすい話題を絶妙なタイミングで振ってくださり、客席には若いお客様が大勢いらしたのですが、能が初めての方でも興味を持てる切り口の話題がふんだんに繰り広げられてとても楽しかったです。
もっとお三方のお話たっぷり聴いていたかったな。

鼎談の際、いとうせいこうさんが身につけていらした袴は、先々々代十七世九郎重英先生のものというのにもビックリ。

そしていよいよ、能「鞍馬天狗」!

辰巳満次郎先生の深みのある緩急豊かなお声と演じられるお姿に圧倒されました。
牛若役の子方さんは凛とした涼やかな声がよく通って清々しかった。
これからご覧になる方もおられるので細かには書きませんが、子方ちゃん(子役)がたくさん登場するのも見所のひとつですよ。

私は「地謡LOVE」な人なのですが、今回もたっぷり地謡を堪能させていただけて幸せでした。

鼎談の際にいとうせいこうさんもおっしゃっていましたが、地謡は西洋のコーラスとは異なり「みんなの声の高さや色を無理に合わせようとはしない」んですよね。

ある程度このあたりでまとめよう、の線はもちろんあるのですが、それぞれの個性を保ちつつ集団で謡うあの感じがたまらなく好きなんです。

でもって、その地謡のみなさんとシテの動き、橋掛りもしっかり眺められる場所の「中正面」が好きな席。お席の料金も比較的リーズナブルなので、たいていこの位置から能を拝見しています。

今回の演目は、現代劇のように構成もハッキリしていて登場人物も最後までキャラクターがしっかり立っていたため、いわゆる「まどろみのひととき」は訪れずに済みましたが、朗々と響く声や心地よい鼓の音を聴きながら、現実と幻想のあわいを行き来しつつ楽しむあのまどろみかける時間もまたお能の楽しみのひとつ。

眠気のようでいてそうではない、ほんのりけだるく甘いあのひととき…。そしてリアルに戻らなきゃならない場面では、なぜかしっかり意識が客席に戻っている…いつも不思議に思います。

休憩時間にロビーに出ると、大塚さんが手にしていらした台本の展示が。

朗読台本と出演者のサイン

壁面にはこれまで夜能にご出演になられた声優のみなさんのサインも掲げられていました。

いつもは和綴じの謡本をお土産に買って帰ったりもするのですが、入口付近で販売されていた1100円(税込)のプログラムに詞章の一部も掲載されていたのでそちらを購入。

プログラムとリーフレット
表紙絵に惹かれて購入した『雪の能』

書店コーナーでみつけた『雪の能』(大河内俊輝著・わんや書店刊・昭和52年発行)もここで買いそびれると次どこで出会えるかわからないのでお土産に。
フィクション、ノンフィクション両方の作品が10編。能の世界と少し前の日本の空気を色濃く感じられる作品がズラリ。

帰りの電車の中で読み始めてすぐの「埋火」が、思いがけず艶っぽいお話でドキドキしてしまったのはヒミツです…

○夜能

#夜能 #能 #いとうせいこう #大塚明夫
#声優 #能楽堂


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