一口小説:白昼夢
「あ」
冷蔵庫にアイスがない。
「ぐぬう」
口に加えたアイスの棒を捨て、
氷のないグラスに入った麦茶を飲み干す。
「ッダァーーーー!!キマる〜〜」
「しようがないのう。」
コンビニにアイスを買いに行こう。
ついでに炭酸飲料。
そんで熱々のコロッケ!
「たはーっ贅沢じゃあ〜〜」
袋からカサカサとコロッケを出し、頬張る。
この炎天下で暑いコロッケ…
コンビニのコロッケを初めて食べたのはいつだっけな。
中2かな。なにかの帰り道だっけ。
家への帰り道でちょうど食べ終わるサイズ。
あー美味しかった。
建物の隙間から空。
上に空。
きれいだな。
青いな。
こんなに青い。
いいな。
私は青が好きだ。
空を飛んでみたい。
あんな青と光にまみれちゃったら、
きっと息ができなくて、
頭が痛くて、
キラキラしてて、
死んでもいいって思えるな。
こんなに、空がきれいなのに
「今日お祭りがあるんだって!
一緒に行かない?」
友達からの連絡だ。
お祭り。
久しく行ってない。
今年も、行く友達もいないし、人混み苦手だし、
いかないつもりだったけど、
誘ってくれた。
わあ、うれしい。
この子とだったら行きたいな
「えへ、うれし」
思わず口に
「あ」
『あ、起きた』
吸いづらい空気。
白いカラーリング。
スマホをいじる子供。
ああ。ここは塾か。
『ほら、授業が始まるぞ
あー、宿題やってねえや。
先生にあやまんなきゃだな…だりー…』
脳内の友人が流暢に喋る。
スマホが震える。
着信だ
友達から…
「このあとお祭りがあるんだって!
一緒に行かない?」
ああ、
行きたい
「ごめん〜塾だあ…
今度行こ!ほんとごめんね誘ってくれたのに」
死んだ目で返す。
夏祭りなんてなかった。
海もなかった。
空もなかった。
田舎も、駄菓子も。
あるのは虚空と変に照らされた未来だけ。
なにもないのと一緒だ。
「あーあ。」
声にも出ない。
「⬛⬛さん。宿題やってきた?」
「あ、すみませんやってないです…」
いつも通り全力の申し訳無さそうなフリ
ができない。
声も顔も死んでる。
あは、ほんとに死んじゃった
「う〜ん良くないなあ。
受験生なんだからさあ。」
「はい。すみません」
「じゃあテキスト…」
テンプレの会話。
聞き飽きた。
本当に苦痛、だ。
早く逃れたい。
すべてを捨てたい。
…
空に行きたい。
『おつかれー』
「ああ、うん」
『今日は推しの配信もなし、
帰ったら飯だな。』
『…
コンビニ、行くか?』
「もう遅いし、家より遠いから行かないよ」
『そか』
「ねえ
私、何してんだろうね。
何が楽しくてこんなことしてんだろ。」
『…知らね。周りの大人が騒ぐんだから仕方ないだろ。
喉元過ぎれば熱さ忘れるってやつだよ。
大人たちはその年までなんとかうまく生きてきた。
だから…仕方ないよ。』
空が黒い灰色だった。
星はなかった。
夜風は少し綺麗だった
また明日も同じ。
『夏って、なんなんだろな』
「しらんけど。
理想は苦しいばっかだ」
『夢みんなよ』
「甘い夢くらい見せてよ」
一人ぼっちのリビングで、
クリック音だけが響く。