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信託制度にみるアメリカ人の実用化力

「アメリカ人はなぜ理論より学問の実用にこだわるのか」
これは1840年に刊行された「アメリカのデモクラシー」第2巻の中でフランス人のトクヴィルが述べた言葉です。

信託という制度がありますが、もともとはヨーロッパで「ユース(トラスト)」という法理が生まれ、それがアメリカに渡ってビジネス化したものです。その後、日本にも導入され金融商品として耳にした人もいることでしょう。
冒頭のトクヴィルの言葉を本で見たときに、「信託制度」がそうだと思いました。

まず、トクヴィルの学問に対する見方は次のようなものです。

「学問はその精神によって3つの部門に分けることができるように思われる」
「第一はもっとも理論的な諸原理、もっとも抽象的な諸観念を内容とし、そうした原理や観念には応用の余地がなく、あっても実用には程遠いものである」
「第二のものはなお純粋理論と結びついてはいるが、直接かつ簡単に実用につながるような一般的真理から構成される」
「応用の仕方と実施の方法が第三の部門の中身である」

「アメリカでは、諸学の純粋に実用的部分は素晴らしく進んでおり、理論的な部分でも応用に直接必要なものは入念に研究している」

アメリカ人はプラグマティックだと言い放つつもりはありませんが、こと信託制度についてはヨーロッパで誕生した法理論をビジネスに転化したのはアメリカ人です。

信託の仕組みの登場者は、委託者、受託者、受益者、があります。ヨーロッパの中世時代、十字軍の遠征がありました。十字軍の兵士は戦いに赴く時に、家族のために自分の財産を教会に預けました。
これを信託の登場者に当てはめると、
兵士(委託者)が、家族(受益者)のために、自分の財産を教会(受託者)に託する、となります。

ヨーロッパではカノン法(教会法)の財産法論としてもユース(トラスト)が登場しますが、十字軍の例が分かりやすいです。いずれにしても、「信託制度」はヨーロッパでは「民事」の領域から出ることはありませんでしたが、アメリカでは「商事」に発展しました。

アメリカ経済の成長ともに富む者が出てきましたが、彼らは家族・子孫に財産を残すニーズが出てきました。アメリカではプロテスタントだけでなく、そこから派生した教会もあり、教会のあり方はヨーロッパのそれとは違い、十字軍のように財産を教会に託するかわりに、財産管理を専門とする信託会社に財産を託しました。この信託会社が「受託者」になります。

また、株式市場が発展し、一般の投資家が手軽に株式投資できる方法として投資信託の市場が出来上がりました。この投資信託の管理の受け皿として信託が使われました。

信託制度では、委託者が財産を信託会社に託すると、信託会社は受益者のために活動します。委託者が亡くなっても信託会社は委託者の生前の意思に基づいて活動しますから、信託制度は相続において適した仕組みです。
また、財産を管理するという特性が投資信託における証券管理に適しています。信託会社が倒産しても、信託財産は保全されることから、財産を預ける側としても安心して預けることができます。

このように、アメリカでは信託制度がビジネスとして進化する社会的・経済的な土壌があったので、アメリカ人が信託法理を軽視して実用を重視してきた結果だとは言えないでしょうが、さまざまなビジネスで応用してきたとは言えると思います。

「アメリカのデモクラシー 第2巻(上) トクヴィル著 松本礼二訳 岩波文庫」
「概説 西洋法制史 勝田有恒/森征一/山内進編著 ミネルヴァ書房」







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