あの子さえいなければ
怒りは憎しみに変わる
保健室では悩みというよりは恨みつらみを聞くこともある。
4月初めて出会ったクラスのあの子。
幼い頃からの付き合いのあの子。
部活の先輩や後輩。親。先生。
小さな体でどれだけの怒りを溜め込んだのだろう。
当時の出来事がまるで今起こっているかのように話す。
何度も何度も思い返してきたんだろうな、と思う。
相談してきた子自身も、できる範囲のことをやってきた。
我慢したり、誰かに話したり、気を紛らわせたり、その場の空気を壊さないよう優しく言い返したり。
だけど事態は変わるどころか悪化していって、憎しみに変わっていく。
あの子さえいなければ。
あの人さえいなければ。
悩むことなんて、ないのに。
怒りの話の取り扱い方
話を充分に聞くけれども、怒りや恨みは話すほど気持ちが昂ぶり忘れにくくなる傾向があるので、聞き方には気を遣う。
いじめや虐待ならば当事者を物理的に離す選択肢も生まれる。でも、多くの場合は誤解やすれ違いだ。ただその判断は難しい。
だから仕事では事実だけ聞き取ればいいのかもしれないけれども、話し手はその裏側にある感情を伝えたい。その裏側には同情や優しさ、仲間を欲する気持ちもある。
相手が悪いよね。私は悪くないよね。
そんな心の声が聞こえてくる。
心が弱っているときは、そういった極端な思考になることも仕方ない。
「相手にどうして欲しい?」と聞くと大体「性格を直して欲しい」と言う。時には居なくなってほしい以上の過激なことを言う人もいるが、相手に変化を求める。
自分には力がないけど、先生という立場から注意すれば相手が変わると信じている。
確かに私の立場は相手に注意をすることができる。でも相手の言い分も聞く必要がある。私が100%味方になれないと知ると話が終わることもあるけれども、少しずつ受け入れることもある。
気持ちを吐き出したあと、最後の最後に「どういう自分になりたい?」と聞く。
相手に負けず言い返せるようになりたいのか。
相手に媚びへつらうことなく、自分らしくいたいのか。
相手ともう関わりたくないのか。
相手の言動に振り回されない自分でいたいのか。
相手を変えることは難しいけど、あなたが目指す自分らしい生き方をサポートすることはできる。
具体的には言い方を一緒に考えたり、コミュニケーションスキルの練習をしたり、凹みにくい方法を教えられるし見守ることもできる。保健室を一時的な避難場所に使うこともできる。
こんなにつらいのにまだ頑張らなきゃいけないの。
私は悪くないのに、どうして私が変わらなければいけないの。
つらいときはスーパーマンみたいな人が現れて解決してくれたらいいよね。
でも、怒りや憎しみを手放せるのは自分自身だけだから。
今は自分に向けるエネルギーがないだろうけど、その気力がわくまで待っているからね。
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