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【第2話】二次データや現地ネットワークを活用して市場を理解しよう

マーケティングのグローバル化の進展と共に、グローバル市場でのマーケティングリサーチ(以下、グローバル調査)の重要性が高まっています。本連載では、そのプロセスや重要ポイントを詳しく解説していきます。
前回は、自分の生活地域に比べれば、他国・地域について持っている情報(データや肌感覚)はどうしても少なくなってしまう…という点について取り上げました。ではどうしたらいいか…? 第2回の今回は、グローバル調査における対象国・地域の市場状況の把握について見ていきましょう。


1.市場の理解に「二次データ」を活用しよう

一般的に市場環境の把握については、マクロ環境・ミクロ環境に大別されることが多いため、ここでもまずその分類に沿って見ていくことにしましょう。

■マクロ環境とミクロ環境から市場を把握

マクロ環境
経済状況、法・制度、人口構成、自然(地理・気候など)、社会・文化などの状況。PEST分析(政治環境、経済環境、社会環境、技術環境の頭文字)という言葉をご存じの方もいらっしゃるかもしれません。
ミクロ環境
より企業活動に近い部分での環境、すなわち消費者、競合他社、サプライチェーン、関連・隣接業界などの動向に関する環境。これらを検討するためのフレームワークとして、3C分析、5フォース分析、SWOT分析などが代表的です。

では、これらを把握・分析するための材料として、どのようなデータに、どのようにアクセスすればよいのでしょうか。

まず、前者のマクロ環境については、「二次データ」を通じて把握していくものが多いです。二次データは既存のデータ(自分や自社以外が収集・作成)で、代表的なものとしては各国の政府や国際機関の統計などです(それに対して、自らが調査・観察・計測などを行って得たデータが一次データと呼ばれます)。
後者のミクロ環境についても、ある製品カテゴリの出荷数・金額や、世帯や個人への普及率など、比較的マクロに近い基礎データについては業界団体や調査会社などが収集・公開している「二次データ」が活用できることも多いです。

2.二次データを見てみよう!

「人口」を例にとって、オーストラリアの二次データにアクセスしてみましょう。
もちろん、「オーストラリア 人口」といったキーワードでWeb検索すれば、すぐに正解と思われる数字が出てくるとは思いますが、ここでは正確を期すためにオリジナルソースであるオーストラリアのオフィシャル統計データを確認することとします。

総人口であればそれほど難しくはありません。「Australia population」などと検索すると、オーストラリア統計局(Australian Bureau of Statistics)のサイトに辿り着きますので、そこで「Population」を見ると、総人口は約2,574万人(本記事執筆時点)であることがわかります。

出典:オーストラリア統計局サイトのトップページ(2022年1月13日現在)
Australian Bureau of Statistics, accessed 13 January 2022


ちなみに、下記の日本の総務省統計局のサイトには、主要国政府の統計機関や国際機関等の統計サイトへのリンクがまとめられており、大変便利なのでご紹介しておきます。

●外国政府の統計機関
https://www.stat.go.jp/info/link/5.html

●国際機関等 (統計関係のページ)
https://www.stat.go.jp/info/link/4.html

3.二次データを駆使するには2つの山がある

このように総人口を調べることができました。実際のマーケティング戦略立案やグローバル調査のためのデータとしては、総人口だけわかっても仕方がないことがほとんどです。地域別・都市別人口や性別・年代別人口、あるいは世帯数、またその組み合わせで、「地域×年代別の世帯数と人口が知りたい」といったようなケースがしばしばあると思います。そのようなデータがあるのかなどはそれぞれのサイトを見て、確認していく必要があります。これは、実際には非常に労力のかかるところです。

このように、最初の山は「求めているデータに辿り着けるかどうか」です。しかし、「データに辿り着いた後の処理工程(データの加工など)もそれ以上に大変」で、あたかもゲームで難敵を倒した後にさらに強敵が出てくるような展開というのが往々にしてあります。これが2つめの山です。

しかし、二次データでも、統計データをWebサイト上で自分の必要な形に加工(属性絞り込みや時系列抽出など)したり、見やすく図表化ができたりするサイトも増えています。
下記は、韓国統計庁の国家統計ポータル(KOSIS)のサイト上で、とある人口データを加工して示したものです。もとの人口データから、2021年と、10年前の2012年のデータだけに絞り、行政区分別(道や特別市/広域市別)にグラフ化してみました。このような加工やヴィジュアル化が簡単に可能です。余談ですが、ソウル特別市の人口が若干減少し、近郊の首都圏である京畿道(キョンギド)の人口が増えていることがわかりました。

韓国統計庁の国家統計ポータル(KOSIS)上でデータを加工してヴィジュアル表示した例
Source: KOSIS (행정안전부, 주민등록인구현황), 2022.1.13.

また、このような各国の政府や官公庁、国際機関、金融機関・シンクタンク・調査会社等などから発行されている主要な統計データや調査データ・予測データなどを収集・購入して大量のデータをポータル的に検索したり、結果を簡単に加工(ヴィジュアル化・ダッシュボード化)したりできるツールを提供している企業もあります。
マーケティング部門や調査部門、研究開発部門などでは、こうしたサービスの利活用でこれらの「2つの山」を少しでも楽に越えられるように工夫されているところも多いかと思います。

4.業界トレンド等の質的情報の収集方法とは?
      その1_専門機関の情報

ここまでは統計データを中心にご紹介してきました。しかし、統計データ(だけ)では理解しにくい市場状況もあります。たとえばマクロ環境における法制度や、ミクロ環境の中でも先端の業界トレンドなどがそうしたものに該当するかと思います。
こうした領域については、より質的な情報として、専門家(エキスパート)や専門機関の発行する情報の活用が望まれます。二次データとしては、JETRO(日本貿易振興機構)のように企業のグローバルビジネス展開支援を行っている専門機関の海外ビジネス情報などが代表的でしょう。他にも各種の国際機関や研究機関等でもそれぞれの分野に応じて提供・発信しているレポート・白書などの情報が活用できます。

下図で整理してみましょう。市場の理解に際して、まずは二次データが役に立ちますが、その中では統計データのように非常に数量データ的な性格が強い情報と、上述したような質的な性格の情報があります。
いずれにしても、こうした専門機関のデータや情報は、非常に質が高く有用ですが、ピンポイントで自分の探している情報が存在していなかったり探せなかったり、あるいは情報が古かったりすることもあります。そんな場合に有効な方法を次節でご紹介します。

グローバル調査の段階と有効活用できるデータ

5.業界トレンド等の質的情報の収集方法とは?
      その2_エキスパート調査

二次データで不足する情報や、さらに発展した内容を知りたい場合に、協力いただける専門家(当該分野の学識経験者や、業界を熟知している業界出身者やジャーナリストなど)にヒアリングを行い、一次データとして情報や知見を取得する方法も有効です。直接ヒアリングができるため、知りたいポイントや未知のポイントに対する回答が得られるのが一次データのメリットです。
マクロミルのグローバル調査でも、対象国・地域のマクロ環境や業界情報などで情報が少ない場合などに、このような専門家ヒアリング(エキスパート調査)を実施し、その上で消費者調査を実施するケースも多くあります。

また、特に消費者調査を行う場合などは、アンケートの選択肢やインタビューの質問項目作成のために、マクロな指標だけでなく、現地の生活者目線での情報(肌感覚)が重要になってきます。しかし、なかなか既存データではそれに応えてくれません。

そこで、例えばマクロミルの場合は、世界各地のグループや提携会社の現地担当者と必要に応じて連携を取り、現地情報・感覚のサポートも得ながら調査の企画や内容検討を行っています。

マクロミルのグローバルネットワーク

6.まとめ

今回は、対象市場の概況・環境を把握するための手段や方法について、主に二次データの活用を中心に、また一部はエキスパート調査のような方法で一次データを取得したり、マクロミルのグローバルネットワークを通じたりして情報を得る様子をご紹介しました。

市場の状況がわかったところで、次回からは消費者調査を題材としてアンケート調査やインタビュー調査におけるグローバル調査ならではの留意点やポイントを見て行きたいと思います。次回のグローバル調査を知る旅も、ぜひご覧ください。

[参考文献・サイト(本文でURLを提示したものは除く)]
・三浦俊彦・丸谷雄一郎・犬飼知徳, 2017, 『グローバル・マーケティング戦略』有斐閣.
・オーストラリア統計局 https://www.abs.gov.au/
・韓国統計庁 国家統計ポータル(KOSIS)https://kosis.kr/
・日本貿易振興機構(ジェトロ)https://www.jetro.go.jp/

この記事を書いた人

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