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【第1話】グローバルでの調査傾向や考え方

Welcome aboard!
マーケティング活動のグローバル化の進展と共に、マーケティングリサーチにおいてもグローバルでの対応の重要性が高まっています。この連載では、そんなグローバル市場でのマーケティングリサーチ(以下、グローバル調査)について、そのプロセスや重要ポイントをご紹介していきます。
本記事をお読みになっている方の中には、実際に海外での事業展開や調査に関わっている方、あるいは今後関わってみたいと思っている方もいらっしゃるかと思います。そこで、日本国内のみで調査する場合との違いや注意点などを意識しながら、全6回でグローバル調査についてご紹介していく予定です。
それでは、ご一緒にグローバル調査を知る旅に出発しましょう。


1. グローバル調査の対象地域や商材例 ~マクロミルの調査実績より

まず本稿の主題である「グローバル調査」をリサーチビジネスの観点から分類しておきましょう。日本に拠点を構える企業の視点では、広義のグローバル調査としては以下の2パターンに大別できます。

(1)アウトバウンド調査
日本の企業(外資系企業の日本法人含む)・官公庁などが、日本以外の市場・生活者を対象に調査をする、つまり簡単に言えば「外国を調査する」場合の調査です。
(2)インバウンド調査
もうひとつは、外国の企業等が日本の市場・生活者を調査する場合です。

2つとも重要ですが、本稿では主に(1)のアウトバウンド調査のケースを中心に、日本国外を対象とした調査の企画・実施・結果活用などの留意点やポイントについてご紹介していきます。

グローバル調査の実施傾向

図表1は、2020年にマクロミル日本本社がクライアントからご依頼いただいて実施したグローバル調査の実施地域と実施テーマ(商材)です。これをもとに、グローバル調査の実施傾向について解説していきます。

新型コロナウイルスによる感染症(Covid-19)の影響を大きく受けた昨年ですが、それでも数多くの調査をご依頼いただきました。
調査実施地域は、「東アジア」「南・東南アジア」が合計で57%と半数強です。また、「ヨーロッパ(ロシア含む)」「北米」もそれぞれ20%前後となっており、世界の主要地域で広く調査をうけたまわっています。
クライアントからご依頼いただく調査の商材も、「日用品・美容・薬品」26%、「食品・飲料」13%といったいわゆるFMCG(日用財)領域や、消費者の「サービス・生活関連」領域が21%、また「家電・電機」「自動車関連」などのDCG(耐久財)が計23%など、日本国内でご依頼いただいている調査同様に多岐にわたっています。

図表1:グローバル調査の実施地域と調査テーマ(2020年マクロミル日本本社の実績)

また、図表2は、マクロミルのグローバル調査の直近3カ年度分の売上変化を、いくつかのクライアントの業界別に抜粋して掲載しています(各業界とも、2018年7月~19年6月期の売上を「100」とした場合のインデックス)。
マクロミルの傾向ですので、業界全体の調査状況を表すものではありませんが、「ゲーム」業界が非常に伸長し、「FMCG」業界も堅調に推移するなど、コロナ禍での状況を一定程度反映していると考えられる変化も見られ、グローバル調査の市場も刻一刻と変化しています。

図表2:グローバル調査の業界別の売上推移(マクロミル日本本社の実績)

2. グローバル調査と自国調査の違い ~だからグローバル調査!

このように多様な国・地域で調査をするということは、興味深い部分が多々ある反面、難しい点も数々ありそうだ、ということは想像に難くないと思います。グローバル調査は、自国(1カ国)調査と比較して、以下のような特徴があり、調査の実施や結果の活用において留意する必要があります。

A) 法律、政治、経済、社会、文化的差異などに起因する国間の違いがある 
人々の行動も、広い意味での文化、人種、気候、経済水準、宗教、歴史、消費パターン、マーケティング環境、言語などの様々な要素が影響を与えている。

B) 上記の違いにより、調査結果の比較の問題が生じる
言葉や反応の解釈の問題
例えば、同じ「赤」という色でも、そこから連想されるイメージは、文化によって異なる。言葉の翻訳の問題もある。
文化によって、質問に対する反応の仕方が異なる問題
例えば、日本人は5段階などのリカート尺度の質問で、「どちらとも言えない」などの中間選択肢を選びやすいなど。

V. Kumar著『Global Marketing Research』などを参照

図表3:グローバル調査の持つ特徴ゆえの留意点           

様々な社会環境の違いもさることながら、特にマーケティングリサーチャーという立場から見ると、「文化によって、質問に対する反応の仕方が異なる問題」というのも常に悩ましい問題です。
この点については、今後の回にてさらに詳しくご紹介する予定です

3. 私たちが外国について知っているファクトはどうしても自国のものより少ない、というファクト

さて、外国での事業展開や、商品・サービスについての調査を行う前には、基本的な市場や生活者動向について把握をしておく必要があります。それほどデータや統計に詳しくない人でも、日本で長く生活している人であれば、日本についての様々な「データ」や「感覚」などは、知らず知らずのうちにある程度身についているでしょう。例えば、

「Q. 現在、日本の人口はおよそどのくらいか?」
「Q. 日本国内でのビール業界の売上トップ4社はどこか?」

このような内容の場合、細かい桁やはっきりとした順位まで覚えていなくても、おおよそは見当がつくと思います。
しかし、それが、自分が生活をしたことのない国・地域(あるいは世界全体)のこととなると、どうしても知識や感覚として持っている情報量が少なくなります。
最近のベストセラー『FACTFULNESS』(Hans Roslingほか著)をお読みになった方も多いと思いますが、世界のいろいろな事象についてデータを見ると、日本の「感覚」や「常識」から考えても大きく異なるものが多くなります。たとえば、同書では、

「Q. 現在、世界の低所得国では、初等教育を修了する女の子はどのくらいの割合か?」
「Q. 現在の世界の平均寿命はどのくらいか?」

といった例が冒頭に載っています。最初の質問は、「低所得国」の定義は何なのかといった疑問はありますが、いずれにしても日本であれば初等教育(=小学校)の修了率が問題になる事態はほぼないと言えます。
また、2問目の平均寿命も、日本人なら85歳前後に達しているということは、ニュースやその他の情報などでなんとなく見聞きしている方も多いかと思います。
しかし、いずれも世界全体ではどうなのかは、日本での常識・知識や感覚などだけから考えても、実態から大きく逸脱してしまう可能性がある点は留意しないといけません。データに即して検討していく必要があります。

こうした点にどのように対応していくかは、次回以降で具体内容を見ていきたいと思います。

4. しかし、国間の違いだけ考えればいいものでもない

世界には、196の国があります(現在の外務省見解)。国と言っても、連邦制の国もあれば、都市国家のような国もあり、規模・統治形態などは様々です。日本に住んでいる人でも、年代、地域、職業、収入、文化ルーツなど様々な要因により生活スタイルや価値観などは多様です。世界の国々では日本以上に所得分布の分散が大きい国や、民族間での生活スタイルの違いも大きい国なども多くあります。ある商品のターゲット像やプロモーション施策を想定しても、それを単純にその国全体に拡大して適用できるかは注意が必要です。
ここでも、前節で見たように、日本での常識・知識や感覚などだけにとらわれない視点を持つマインドが重要と言えるでしょう。

5. まとめ

今回は、導入編として、マクロミルがクライアントからご依頼いただいているグローバル調査の状況と、特に自国1カ国だけの調査と比較してグローバル調査の特徴や留意すべき点を概観してきました。
次回以降は、調査プロセスごとに、より具体的なポイントをご紹介していきます。
まず次回(第2回)は「市場の理解編」として、今回の3~4節などで見た、海外市場の概要の把握についてのプロセスです。ぜひ次回もお読みいただければ幸いです。

[参考文献]
・Hans Rosling, Ola Rosling, Anna Rosling Rönnlund, 2018, "FACTFULNESS - Ten Reasons We're Wrong About The World — And Why Things Are Better Than You Think", Flatiron Books.
・V. Kumar, 2015, "Global Marketing Research", SAGE Publishing.

この記事を書いた人

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