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今、Z世代が求める「ビール」とは?【ビール消費に関する実態調査】

コロナ禍での行動変化によって、若者のアルコール消費の環境は大きく揺れ動きました。「若者のお酒離れ」が指摘される中、消費行動や価値観に注目が集まる「Z世代」のビール消費の特徴を探るべく、他世代も含めて調査を実施。大学生と協働で、Z世代のリアルな視点を交えながら調査を行い、ビールに対するイメージや、今後のビール消費の裾野を広げる可能性などを分析・検討しました。


リサーチ、ビールのプロと、Z世代の学生が協働!

申し遅れましたが、私はマクロミルでリサーチの研究や開発に携わる熊谷信司です。マクロミルは2019年度より二松学舎大学 国際政治経済学部と産学連携の取り組みをスタートし、私はその教育・研究を担当しています。

今回のゼミ(2022年度「専門ゼミナール2B」/担当・小具龍史教授)では、「よなよなエール」「正気のサタン」「水曜日のネコ」などのクラフトビールで有名な株式会社ヤッホーブルーイングの協力を得て、Z世代のビール消費行動におけるマーケティング課題を設定し、二松学舎大学の学生たちが中心となって定量アンケート調査・分析を行いました(二松学舎大学のホームページで実際の授業をご紹介中)。

なお、当調査データを再分析した詳細レポートは記事末尾のリンクからダウンロードできますので、ぜひ当記事で全体をつかんだ上で、詳細レポートにて理解を深めていただければと思います。

前置きが長くなりましたが、本題にいきましょう。

若者は本当に「アルコール離れ」した?

日本国内のアルコール類の出荷状況を見てみましょう(図1)。ビールは近年、「発泡酒」や「新ジャンル」(図1では「リキュール」や「その他の醸造酒等」に含まれる)などのジャンル変化がありますが、それらを合計してもいわゆる「ビール類」の生産は縮小傾向です。そんな中、これからの消費の鍵を握るとされるZ世代のビールの消費行動はどのようになっているでしょうか。

(図1)日本国内市場における、酒類課税移出数量の推移
(出所:
国税庁『酒のしおり(令和4年3月)』p.2

ここからはアンケート分析結果を世代別に見ていきます。調査時点(2022年11月)の年齢をもとに、20~27歳を「Z世代」、28~42歳を「Y世代」、43~57歳を「X世代」と定義し分析しました。

まず、過去1年間の自宅・外食におけるビールの飲用状況と、購入状況です。自宅または外食どちらかで1回でもビールを飲用した人の割合はZ世代男性が55%、女性が34%で、いずれもY・X世代より低いことがわかります。同様にビールを購入した割合も世代が下がるほど低く、Z世代男性が47%、女性が31%と、Y・X世代より低い割合でした(図2)。

(図2)世代別のビールの飲用および購入割合


このように、Z世代はビールを飲用する人の割合が他世代よりも低いという結果でした。一方、「缶チューハイ・カクテル・サワー」はZ世代の方がむしろ高く、アルコール飲料の消費はジャンルによっても異なります。各ジャンルの飲用割合や購入割合は、詳細レポートでご紹介していますので、のちほどご覧いただければと思います。

Z世代、ビールへの「親しみ・日常感」が”やや遠い”

ビール飲用者の割合が上の世代よりも低いZ世代にとって、ビールのイメージはどのようなもので、上の世代に比べるとどのような特徴が見られるでしょうか。ここでは、コレスポンデンス分析の結果から検討します(図3)。

(図3)ビールに対するイメージ(コレスポンデンス分析)


まず、横軸に沿って読み解きます。横軸(左右方向)はビールに対する親近感を表していると解釈できます。右に行くと「癖がある、取っ付きにくい」「古い、時代遅れ」などのように親近感が低く、左に行くと「親しみやすい」「元気が出る」「お手軽、気軽に飲める」など親近感が高い項目が多くなっています。

ビール飲用者は、世代を問わず図の左側にマッピングされており、非飲用者に比べてビールに対する親近感が高いことは納得しやすい点です。さらにマップをよく見ると、飲用者・非飲用者のそれぞれの中で、Z世代はいずれもY・X世代より右側に位置していることから、親近感がY・X世代ほど高くない状況と言えるでしょう。

次に、縦軸(上下方向)に沿って読み解きます。上には「上品」「おしゃれ」「先進的、時代の流行に合っている」など高級感を表すイメージ、下には「お手軽、気軽に飲める」「世代を問わない」「大人数の飲み会、パーティー向き」「安っぽい」など気楽さ・大衆的なイメージの項目が多いため、ビールに対するプレミアム感を表していると解釈できます。

ここでもZ世代は、飲用者・非飲用者のいずれもY・X世代より上に配置されているため、ビールに対してやや高級で洗練されたイメージを持っているとも言えます。しかし他方で自分たちの食生活や日常の活動に十分に溶け込んだ存在になりきっていないとも言えるのではないでしょうか。

なお、コレスポンデンス分析は相対的な特徴を見やすくするもので、スコアの高低がそのままプロットされているわけではない点には注意が必要です。

また、ビールのイメージについては、自由回答でも聴取をしています。Z世代のビール飲用者のイメージについて回答をまとめました(図4)。

(図4)Z世代ビール飲用者の「ビールのイメージ」(自由回答例)

上の世代の飲用者と同じように「喉ごしのよさ」「疲れ・ストレス解消に効果的」「最初の1杯と言えばビール」といったイメージが多く挙がりました。あるいは、「大人の味」「大人になったと感じられるもの」など、20代という年代になった成長実感が反映されています。また、「おじさん(ミドル世代以上)の飲むもの」といったように自分向きのカテゴリではないと感じるという意見もありました。そして、飲用者であっても「苦くて飲みづらい」のように、味に対する苦手意識も一定程度見られました。

次は、特にこの「味」に関する点を掘り下げてみます。

求めるビール、カギの1つ目は「飲みやすさ」

はじめに、Z世代でビールを飲まない人、あるいはビール飲用者でもビールが好きでない人の理由を確認してみましょう(図5)。

ビールを飲まない人も、ビールが好きではない人も、理由の1位は、「ビールの味が苦手」です。特に、ビールが好きではない人は、この「ビールの味が苦手」が他の理由よりも突出しており、2番目の「他のお酒のほうが好き」もこれと関連する結果と考えられます。

(図5)ビールが好きでない、または、ビールを飲まないZ世代、その理由(主要項目)


ビール飲用者の裾野を広げたり、ビールへの親しみを増したりするには、どのようなビールが求められるのでしょうか。ビールの味・食感の好みについて尋ねた質問で「甘味」についての項目を見ると、Z世代ビール飲用者は、Y・X世代飲用者より「甘味」のあるビールを好む割合が高いことがわかります(図6)。

(図6)ビール飲用者の味や食感に対する好み(世代別)

また、今後飲みたいビールについて尋ねた質問を見ても、Z世代は「とても甘いビール」が上の世代よりも高い割合となっています(図7)。

(図7)飲んでみたいビール(ビール飲用者世代別+Z世代ビール非飲用者)

ただし、Z世代ビール飲用者が「甘味」だけを求めているとは言えません。先ほどの図6を見ても、「苦味」や「酸味」などは他世代同様の割合であり、図7では他の選択肢も含めてZ世代飲用者は比較的全般にスコアが高いことが分かります。ビールの味を様々に模索している段階とも言えるでしょう。しかし、上の世代と比べても相対的に「甘いビール」のスコアが高いことなどから、ビールがあまり得意ではないZ世代消費者のビールの裾野を広げられるカギの1つが、甘味のあるビールであると言えそうです。

カギの2つ目は「クラフトビール」

今後飲みたいビールに関する自由回答を分析した結果(図8)からは、味・飲みやすさの他に、「ご当地ビール」「クラフトビール」といった大手メーカー以外が製造する個性的なビールの味を楽しみたいという意見や、ビール缶・パッケージに関する要望などが見られました。

(図8)Z世代ビール飲用者の「今後飲んでみたいビール」(自由回答例)

「1缶あたりの容量」について尋ねた質問の結果からは、全体的には標準的な350 mlサイズが適量という回答が多かったものの、より大容量を求める人や、より少容量を求める人もそれぞれ一定の割合を占めました。Z世代ビール飲用者では、男性は「500 ml以上が適量(計32%)」が「250 ml程度以下(計17%)」を上回りましたが、逆に女性は「250 ml程度以下が適量(計27%)」が「500 ml以上(計20%)」を上回りました(データは詳細レポートに掲載しています)。

また、「クラフトビール」という言葉は世代を問わず、ビール飲用者では高い認知率でした。クラフトビールの認知を尋ねた質問では、「言葉を聞いたことがある程度」という回答者まで含めると、いずれの世代のビール飲用者も90%前後が認知しています。

この「クラフトビール」について、Z世代のビール飲用者から見たイメージは、「おしゃれ」「上品」などの高級イメージのほか、「若者向け」「親しみやすい」なども上位となり、Z世代からも自分向けの商品として興味を持たれていることがわかります(図9)。

また、Z世代ビール飲用者では、クラフトビールの購入に対して、60%以上が「買いたい」(「非常に買いたい」「買いたい」「やや買いたい」の合計)と回答し、Y・X世代ビール飲用者と同等ないし上回るスコアとなりました。

(図9)Z世代ビール飲用者によるクラフトビールに対するイメージ(上)と、購入関心(下)

Z世代は、自分好みのビールを開拓中

冒頭で見たように、Z世代のビール飲用割合は、Y・X世代に比べると低い状況でした。アルコール飲料の種類(選択肢)も増え、「とりあえずビール」のような文化が薄れているという感覚にも共感される方は多いと思います。その意味では、まずはZ世代のビール飲用者の裾野を広げることは、ビール業界のマーケティングにおける重要な課題です。

Z世代はまだアルコール飲料に対しては開拓中の年代でもあり、自分に合う味や好みの味、飲み方などを模索している段階でもあります。「今後、今まで飲んだことのない種類のお酒も試したいと思う」という意見に対しては、Z世代ビール飲用者は67%が肯定しています。またZ世代ビール非飲用者でも46%が肯定しており、これはY世代以上の非飲用者よりもかなり高い数字です(図10)。

また、「お酒は、人と仲良くなったり打ち解けたりするのに有効な手段である」への肯定度については、ビール飲用者では世代による差はなく、アルコール飲料がコミュニケーションを円滑にする効果があるという視点についてはZ世代も上の世代も同様の認識です。したがって、その際に先ほど見たような、Z世代にも飲みやすく、関心を惹くような商品が増えることは重要でしょう。

(図10)アルコール飲料に対する意識(世代別)

最後に、商品開発のみならず、流通・プロモーションの観点では、世代特徴を踏まえた発信内容・方法も考慮する必要があります。ビールやアルコール飲料に限らない商品一般についてですが、「テレビCMや新聞広告より、SNSの投稿やインフルエンサーから紹介される商品のほうが親しみやすい」という意見については、若い世代ほど肯定する割合が高く、Z世代ビール飲用者では48%に上ります(図11)。情報収集行動や、どのような情報に共感するかは、世代によって異なりが見られます

(図11)商品広告の親近感に関する意識(世代別)

今回のように年代・世代だけで消費者のセグメンテーションやターゲティングを行うことの限界はもちろんありますが、今回の分析結果からも、ビールのように個人の嗜好性が強いと思える商品であっても世代差が強く現れていた結果も多数ありました。この調査分析が、消費者を取り巻く時代の特徴や変化を考慮したマーケティング環境を考えていくための1つの事例となれば幸いです。

<詳細調査レポートはこちらからダウンロード可能です>
https://www.macromill.com/service/report/research-report/075/

【調査概要
調査名 :Z世代のビール消費に関する実態調査
調査主体 :マクロミル
調査方法 :インターネットリサーチ
調査対象者 : Z世代(20~27歳):ビール飲用者 660人、ビール非飲用者 166人、Y世代(28~42歳):ビール飲用者 166人、ビール非飲用者 42人、X世代(43~57歳):ビール飲用者 166人、ビール非飲用者 42人
回答者数 :1,242人
調査実施期間:スクリーニング調査:2022年11月24~26日、本調査:2022年11月25~28日

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