シリコンバレー銀行 (SVB: Silicon Valley Bank) 破綻から垣間見る利上げの銀行システムへの影響と今後の連銀の金融政策
シリコンバレー銀行が2023年3月17日(金)に破綻した。破綻したというのは破産法11条を適用するという意味でこれから会社更生手続きに入るということである。連銀による金融引き締め政策が継続していく場合、シリコンバレー銀行に限らず他行も破綻していく可能性がある。余談だが銀行が金曜日に破綻するのは月曜日までの48時間を確保するためである。
シリコンバレー銀行が破綻した理由は取り付け騒ぎが発生したからだという(Iacurci, 2023) 。取り付け騒ぎは銀行が預金を保証できるだけの資産がないと思われるから起きた。FDIC(米国の預金保険機構)により25万ドルまでは預金が保証されるがシリコンバレー銀行にある預金額の9割以上はこの25万ドルを超える額である (Allyn et al., 2023)。シリコンバレー銀行の場合、利上げによって保有している長期債券(殆どが国債と思われる)の価値が下落したことによる資産減少が原因だという。普通にローン貸出が主な業務であれば利上げは銀行にとっては有利なはずであるが、シリコンバレー銀行では資産全体における長期債券の保有率が相当高かったと思われる。以下では連銀による一連の利上によりどれくらい債券価額が下落するのかを検証してみたいと思う。そして利上げによる銀行システムへの影響をシリコンバレー銀行の例もとにみてみる。最後に今後の連銀の金融政策について考察してみる。
利上げによる債券価額への影響
長期債券を利上げ手前に購入した場合、3年程前に償還期限10年程度の国債や社債を購入していたと思われる。債券価額の変動率を計算する為以下を条件にシミュレーションしてみる。債券価額の変動率の計算方法に関しては以前の記事 債券価格の変動率 を参照のこと。
条件:
表面価額 (Face Value) = JPY 10,000
クーポン = 1.5%
利率 = 4.0%
償還期限までの年数 = 7 年
* クーポンは1年に2回支払われると想定する。
まず Modified Duration を求める。
最初に債券を購入した時の金利が1.5%、最後の評価時の金利が 4.0% とすると債券価額の変動率は -16.3% となる。仮に10兆円を金利1.5% の時に投資していた場合、金利4.0% の時には 8.4兆円の評価額となる。もちろん評価額であるので債券を売却しなければこの損失は確定されない。償還期日を迎えたら元本は払い戻されるのだが、それまでに金利が高い水準で推移した場合貸借対照表上、資産価値は事実上減少している状態となる。
利上げによる銀行システムへの影響
以上の事を踏まえつつ過去5年間のシリコンバレー銀行の資産と負債の状況を見てみる。以下シリコンバレー銀行の年次報告書のデータをもとに筆者が作成した。ローン貸付の46% は債券等の証券投資にあてられていた事を前もって指摘しておく (Mogenson, 2023)。
まず預金の増え方の動向である。2018から2019は25%、2019から2020は65%、2020 から 2021 に渡っては90%の増加率である。急激な伸び方である。そして2021から2022にかけてはなんと -8.5%である。
次にみてもらいたいのは投資総額とローン貸付の動向である。2020年度を境に投資総額がローン貸付を上回ったのがわかる。そして2022年度では投資総額は前年度を下回っている。2022年度年次報告書の損益計算書によると投資関連の損失は $285 million とある。
参考に10年物米国債の金利の推移は以下の通り(ソース:米国連銀)。2022年度では金利が1.5から4.0%へ上昇した。
米国商業銀行全体としても2022年度初頭から預金総額は頭打ちし減少に転じている(ソース:米国連銀)
考察
上記のシミュレーションから考えて2022年度におけるシリコンバレー銀行の投資による損失はそこまで悪くないように思える。それでも損失が確定されているのは間違いないのでやはり利上げによる資産評価額の減少の影響はあるといえる。ローン貸付よりも投資を優先したという事も損失の拡大につながったといっていい。しかし経営破綻するくらいの損失なのだろうか。直接的な原因はやはり預金の流出だが、はたして投資関連の損失や含み損が原因というだけで預金が流出したのだろうか。理由はそれだけではないと思える。なぜなら米国商業銀行全体の預金総額が2022年度の初頭から減少に転じているからだ。筆者は利上げによる景気悪化で企業も個人も預金を取り崩さざる得ない状況にあるのではないかと仮説をたてている。この現象は時期的にも重なっているので相関関係があるのではないだろうか。つまり金融引き締めが継続していけば他の商業銀行へと波及していく事が懸念される。このことから連銀が引き続き金融引き締め政策を維持できるのか筆者は疑っている。インフレを容認するか銀行システム破綻のリスクを高めるかの二者択一に迫られた場合、インフレを容認する可能性の方が高いのではないだろうかと思う。時期を予測する事はできないが今年中にでも連銀は金利を引き下げ、金融緩和へと舵を切るのかもしれない。
巷のうわさ程度ではあるが、経済への悪影響にもかかわらず連銀は金融引き締め政策を継続していくのではないかという話がある。理由は戦争などの影響によるインフレで、それを抑制する必要があるのだという。事実、これまでアメリカはウクライナへ総額 $75 billion (10兆円程度)を支援してきた (Masters, 2023)。根拠はないのでなんともいえないが、もしそうだとしたら金融引き締め政策は長期化する可能性がある。今のところ筆者は国際政治が安定へ向かっているという印象はない。政治の影響で連銀が安易に金利引き下げへと転じることができない可能性があることを共有しておきたい。
引用索引
[1] Iacurci, G. (2023, March 17). Why our brains are hard-wired for bank runs like those that toppled SVB, Signature. CNBC. https://www.cnbc.com/2023/03/17/why-investor-brains-were-hard-wired-for-bank-runs-at-svb-signature.html
[2] Allyn, B., Gura, D. (2023, March 13). The U.S. takes emergency measures to protect all deposits at Silicon Valley Bank. NPR. https://www.npr.org/2023/03/12/ 1162975615/the-u-s-takes-emergency-measures-to-protect-all-deposits-at-silicon-valley-bank
[3] Morgenson, G. (2023, March 17). The uncommon lending practices behind Silicon Valley Bank’s woes. NBC News. https://www.nbcnews.com/business/business-news/unusual-lending-practices-silicon-valley-bank-rcna75252
[4] Board of Governors of the Federal Reserve System (US), Market Yield on U.S. Treasury Securities at 10-Year Constant Maturity, Quoted on an Investment Basis [DGS10], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/DGS10, March 29, 2023
[5] Board of Governors of the Federal Reserve System (US), Deposits, All Commercial Banks [DPSACBM027NBOG], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/DPSACBM027NBOG, March 28, 2023
[6] Masters, J., Merrow, W. (2023, February 22). How Much Aid Has the U.S. Sent Ukraine? Here Are Six Charts. Council on Foreign Relations. https://www.cfr.org/article/ how-much-aid-has-us-sent-ukraine-here-are-six-charts
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