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アメリカ景気後退の兆候 - 新築住宅建設着工数と新車自動車販売台数から読む

前回の記事 では連銀の利上げによる金回りが悪化している事について書いた。今回は、新築住宅建設着工数と新車自動車販売台数からアメリカ景気後退の兆候を読んでいこうと思う。参考までにアメリカの人口増加のグラフとGSCPI (Global Supply Chain Pressure Index) について言及する。筆者の見解として、長期的にはアメリカの経済規模は拡大していくので、景気後退は設備投資などを行う良い機会になりえるということで締めくくる。ただし、目前にアメリカ景気後退があれば日本にも影響されることが予測される。景気後退の時期やその程度がそれなりに掴めれば、次の景気拡大サイクルに備えやすくなる。

調査結果

新築住宅建設着工数

図1. の灰色部分は景気後退期間を意味する。グラフが示しているのは1年間の新築住宅建設着工数で毎月発表される。グラフが下がり始めたら景気後退ではなく、下がり始めてから相当期間が過ぎたのちに正式な景気後退として認識されている。1980年代の下降サイクルでは、底値あたりで正式な景気後退と認識されている。2006年から2009年の下降サイクルは、サブプライムローン崩壊を発端とした金融危機の時期である。2009年あたりを底に、2022年初頭まで上昇しているのがみれる。2020年頃の急下降と上昇は都市閉鎖とその解除にあると考えられる。グラフ全体としてみて、各サイクルでは200万戸あたりをピークに80万戸あたりまで下降している。1990年からのサイクルでは、上昇は緩やかで下降は比較的急速になるパターンがみれる。

図1. 新築住宅建設着工数 (1)

新車自動車販売台数

図2. のデータは年間新車自動車販売台数を月ごとに更新したものである。灰色の部分は景気後退期間である。全体としてみて、1,750万台あたりの水準をピークとし、景気後退の下降局面での底値は1,000万台あたりでその後回復に転じている。都市閉鎖後の2021年頃には1,750万台あたりまで急速にもどし、その後500万台程度下降したものの、2022年からは回復基調にあるようにみえる。下降するときは比較的急速に、回復するときは比較的緩やかに上昇している。

図2. 新車自動車販売台数 (2)

Global Supply Chain Pressure Index (GSCPI)

これは世界のサプライチェーンがどれだけ切迫しているのかを示す指数である。標準偏差で表現され、1σ=68%, 2σ=95%, 3σ=99.7% であるので、それ以上の数値は世界のほぼすべてのサプライチェーンが麻痺していた事を示している。このピークは2022年初頭頃にみられ、その後下降し現在では平均の水準にある。2020年上四半期のピークは世界的な都市閉鎖によるものと考えられる。

[https://www.newyorkfed.org/research/policy/gscpi#/interactive]

* リンク先の問題は自己責任でお願いします。

アメリカ合衆国の人口の推移

ここでいう人口とは居住者を意味し、これには外国人も含まれる。なお不法滞在者などは含まれていない。景気に関係なく一貫して増加していく傾向にあるのがみてとれる。

図3.アメリカ合衆国の人口の推移 (3)

考察と結論

まず前提として、筆者はアメリカ国籍なのでアメリカ関連を書くときはバイアスがあることをお伝えしておきたい。景気後退の話題ばかり扱うと悲観論を売りにしているような印象を与えてしまうかもしれないが、アメリカの景気後退はむしろチャンス到来と筆者は考えている。そう考える理由は、景気後退とその後の拡大を繰り返しつつも、長期的にみてアメリカの経済規模は拡大し続けていくと思っているからだ。いずれ資料を整理して書こうと思うが、仮にドルが唯一の基軸通貨でなくなったとしても、世界唯一の覇権国家でなくなったとしても、この傾向は変わらない。図3にあるように、人口が増加の一途を辿っているのも理由の一つである。ただしこのチャンスをものにできるのは火薬を乾燥状態に保てたものだけである。先行指数から景況を読むことは重要である。

新築住宅建設着工数は2022年度初頭をピークに減少を続けている。過去のサイクルではピークから底を打つまでの期間の半分程度経過したところで景気後退と認識されている。このことから、景気後退が正式に認識されるとしても1年か2年先くらいな感じがする。2022年度初頭のピークは、過去のサイクルのピークである200万戸には及ばなかった。図3にあるように人口が増加し続けても、である。住宅が不足しているという事なら今回の下降サイクルは過去の底値である80万戸までいかないかもしれない。いずれにしても現在ディベロッパーが慎重になっているのは間違いないと思う。

新車自動車販売台数のグラフを読むとき、世界的な都市閉鎖などによるサプライチェーンの混乱を念頭に置かなければならないと思う。世界のサプライチェーンがどれくらい切迫しているのかを示す指数が GSCPI (Global Supply Chain Pressure Index) である。この指数が示すところ、2020年度の新車自動車販売台数の暴落と2022年あたりの落ち込みはサプライチェーンの混乱によるものと考えられる。現在サプライチェーンに関しては平均値あたりまで落ち着きつつあるように思う。新車自動車販売台数も回復基調にあり、コロナ以前の1,750万台の水準に向かっていく感じはする。現在この水準に達していないからといって景況が悪化している理由の一つと考えるのはまだ早いと思う。ただし今後下降していく可能性がある。理由は ISM Manufacturing PMI という製造業購買指数が 46.3% と収縮傾向を示しているからだ。

総合的にみて減速感はあるもののまだ景気後退とまで呼べるものではないのではないかと思う。S&P500 も2022年以降はほぼ横ばいで推移している事と原油をはじめとした物価高も依然続いている事を考えると、しばらく連銀の金融引き締め政策は続きそうである。先行指数がさらに悪化し、失業率などの遅行指数で確認されるまで金融緩和に転じないとするならば、金融緩和は景気後退の只中でなされると考えられる。その場合、金融緩和に転じたとしても景気回復まで相当期間有すると思われる。リーマンショックの時をあてはめるならば2-3年間は続きそうだ。仮に連銀が今年の夏までに金融緩和に転じた場合、景気後退があったとしてもそこまで深いものにならないかもしれない。今後の金融政策と財政政策に注目していきたい。

引用索引

1.     U.S. Census Bureau and U.S. Department of Housing and Urban Development, New Privately-Owned Housing Units Started: Total Units [HOUST], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/HOUST, April 3, 2023
 
2.     U.S. Bureau of Economic Analysis, Total Vehicle Sales [TOTALSA], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/TOTALSA, April 3, 2023.
 
3.     U.S. Bureau of Economic Analysis, Population [POPTHM], retrieved from FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis; https://fred.stlouisfed.org/series/POPTHM, April 4, 2023.


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