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モンゴル語辞典の修理 〜背表紙を栞にカスタマイズ〜

『現代日本語モンゴル語辞典』  春風社|2005年

傷んだ本の修理をしています。
日用品のなかで直して使うモノといえば、靴やカバン、食器や家具など、一度は修理に出したり、自分で直したりした経験のある人も多いのでは?一方、本の修理はあまり知られておらず、「本が直せることを知らなかった」という声を聞くこともしばしば。

本も、破れたページをつないだりゆるんだ糸を綴じ直したり、繕うことで長く使い続けることができます。「繕う」には、「傷んだ部分を直すこと」のみならず、「整えよそおう」という意味もあり、モノとしての機能を回復させるだけでなく、好みの本にカスタマイズできることも修理の楽しみのひとつです。
今後、繕った本たちのストーリーを紹介していきたいと思います。

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今回紹介するのは、辞典の修理。
「最近はネット翻訳に頼りがちだったけれども、10年ほど使っているこの辞典を直して、モンゴル語の勉強を深めていきたい」
というご依頼で、馬頭琴奏者のイラストが描かれたあたたかみのある表紙が印象的な一冊です。

▽Before
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ずいぶん使い込まれていて、ちぎれてしまった表紙と本の中身をつなぎとめるため、背表紙と中身に白いテープが何枚も貼られています。そのおかげでなんとか崩壊をまぬがれているものの、表紙やページの一部がテープで隠れてしまっていたり、糸もゆるみはじめていたりとグズグズして不安定な状態です。

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そこで手立てとして、まずテープをすべて取り除いて本を一度解体し、見返しと背表紙を新しいものに交換して、ゆるんだ糸を綴じ直しました。
テープで見えなくなっていた背表紙は、お客様と相談のうえ、栞として再生させることに。丈夫な紙で裏打ちし、しっかりした栞に生まれ変わりました。

修理完了後の本はこちら!

▽After
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今回は行なっていませんが、ほかにも、たとえばカバーや帯を中に綴じ込んで保存する方法や表紙のタイトル部分だけを函に貼り付けるなど、思い入れのある本だからこそ、元のパーツを捨てずに活かす工夫ができます。

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繕いが完了して本を納める際、冒頭写真で緑のマーカーがひかれている「土俵」の読み方を教えてもらいました。モンゴル語では「ブクジ」と言うそうです。
日本と同じく相撲が盛んなモンゴルならでは!と、親近感を感じたのもつかの間、モンゴルに土俵はなく、試合は草原を舞台に繰り広げられるのだとか。毎年7月に行われる「ナーダム」というお祭りでは、モンゴル相撲や弓、競馬の大会が開催されるそうです。きっと大迫力のお祭りなのでしょう。

余談ですが、旅好きの私にとって、辞書や会話帳は欠かせないコミュニケーションツールのひとつ。その土地ならではの言葉を少しでも覚えていくのが楽しみです。カタコトの現地語トークをきっかけに、写真をとったり、ご飯を食べたり、新しい言葉を教えてもらったり……。言葉は旅を何倍も面白く、予想不可能なものにしてくれます。
いつかモンゴルへ行く機会があったら、教えてもらった「ブクジ」を使ってコミュニケーションしてみたいと思っています。



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