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ジョニーベア【8】2500文字

↑前のお話し↑
【8】
ジョニーベアとハックルは
樹の実をたらふく食べると、
ひだまりの中で
ぬくぬくと昼寝をしました。
赤く染まった夕方の空に一番星が現れて、
どこからともなく聞こえてきた
虫の歌に耳をくすぐられて、
二匹は目を覚ましました。
そして空が暗く落ちると、
夜空を見上げて、七つ星を探し始めました。

「なぁジョニー、七つ星って言ったって、
こんなにたくさんの星があったら
どの七つ星かまったく分からないよ」
ハックルが空を見回して言いました。
「大丈夫、大丈夫、
僕はしっかり夢で見た星を覚えている。
なんたって、ママの形をしているんだからね」
ジョニーベアは楽しそうに夜空を見上げながら
そう言いました。
「その七つ星はね、
ちょうどママの大きなお尻の形を
しているんだよ」
「夜空に浮かぶ
大きなクマのお尻なんておかしいや」
ハックルはクククククッと笑って言いました。
「あっ、あったった! 
北の空に浮かぶママのお尻の七つ星」
ジョニーベアはそう言って、
その七つ星を指さしました。
ハックルもジョニーベアの指差す方を
見ました。
「本当だ、本当だ、
あんなところに大きなクマのお尻の
七つ星が隠れていたよ」
「とうとう僕たちの冒険が始まるね」
ジョニーベアが声を弾ませて言いました。
「最高の森のコンビの冒険だ」
ハックルはそう言うと、
ヒュルヒュルとジョニーベアの
頭の上に駆け上がって、
七つ星を指さしました。
冒険の始まりに自然と胸は昂りました。
北の夜空に浮かぶ七つ星に向かって、
二匹は大きな一歩を踏み出していきました。
 
七つ星に向かう夜の渡り歩きの冒険は、
それから何日かたち、
何十日とたち、
何週間もたちました。
しかし歩けども歩けども、
七つ星に近づく事はできませんでしたし、
楽園森を思わせるのどかな景色はどこにも見当たりませんでした。
 
夜の森ですれ違う動物たちにも
楽園森の事を聞きながら歩いていましたが、
どの動物たちからも
確かな事は聞けませんでした。
「楽園森だって、何だそれ」
シカは言いました。
「そんな夢みたいな森がどこかにあるって?
君たちはタヌキにでも騙されてるんだよ」
キツネは言いました。
「なにキツネみたいなこと言ってるんだよ」
タヌキは言いました。
「そんなことより、
君の頭にのっかっている
美味しそうなリスを僕におくれよ」
クマがヨダレを垂らしながら言いました。
ある日、赤くて重たい満月が垂れ込めていた夜に
フクロウに出会って聞いてみました。
楽園森の話は
フクロウたちが話していた事なので、
何か良い事が聞ける予感がしました。
「楽園森ねぇ、
それはおとぎ話にも似た話さ。
僕らフクロウの間ではね、
満月の夜を楽しむために
そういった話をするものさ。
今日なんておとぎ話には
うってつけの満月の夜だね」
フクロウがホーホーホーと
笑いながらそう言ったのを聞いた時、
ハックルは体の力が抜けてしまいましたが、
そんなハックルの落胆ぶりを見ていた
ジョニーベアは言いました。
「どの動物たちが何を言おうと
僕はかまわないよ。
これは僕らの冒険であって、
彼らの冒険じゃないんだからさ。
夢で見た七つ星だって、
この夜空にちゃんとあるんだ。
あの七つ星は
ママからの大切なメッセージに間違いない」
「そうだよ、これは僕ら最高のコンビの冒険。
信じるのはあのクマのお尻の七つ星だけだよな」
ハックルはぐっと拳をあげて言いました。

フクロウの話しを聞いていらい、
二匹はもう森の動物達に
楽園森の事をたずねるのをやめました。
ただ北の夜空に浮かぶ
七つ星を信じる事にしたのです。
森は雪がふるようになってくる季節になり、
冬はあっという間に深まり、
凍てつく夜の森の中を二匹は歩いていきました。

たまに気持ちが挫けそうになると、
七つ星に向かって
二匹は歌を歌いながら
渡り歩きを続けていました。
 
歩いて、歩いて、歩いて行こう
北の夜空に輝く七つ星にむかって
夢の場所がそこにある
その森に行けば、
悲しいことも
苦しいことも
どこかに消え去り、
よろこびが溢れているよ。
そこが楽園森、七つ星の元に広がる夢の森
 
その日はとりわけ北風が強くて、
雪がふきすさぶ夜でした。
ジョニーベアは足元をしっかり見ながら
歩いていましたが、
まばたきもできない程に
雪も風も強くなってきて、
この夜はこれ以上歩けないと思い、
適当なほら穴を探していると、
向こうの方に雪が赤く染まって
小高くなっている場所がありました。
ジョニーベアはその赤くそまった雪の場所が
気になり、そこに行って赤い雪をかき分けてみました。すると、ほどなくして雪の中から大きな
クマが現れました。傷ついたクマが雪に埋もれて、辺りの雪が赤く染まっていたのでした。
ジョニーベアはさらに雪をかき分けて、
クマを雪の中から掻き出しました。
そしてよくよくそのクマを見てみると、
全身いたるところにキズを負っていました。
ジョニーベアはクマの鼻に耳をそばたててみると、そのキズついたクマはまだ息をしていました。ジョニーベアはすぐさまにそのクマを背負うと、ゆっくりと歩きはじめました。
「おいジョニー、
まさか君はこのクマを助けようというのか」
ハックルが驚いた様子で言いました。
「当たり前だ。まだ息しているし、
キズが治ればまた元気になれるけど、
このままじゃ凍え死んじゃうよ」
「でも君よりも大きなクマを背負ってなんて、
ほら穴を見つける前に君が凍って倒れちゃうよ」
とハックルはジョニーベアを心配して
言いました。
「それでも僕はこのクマを助けたい」
「ジョニー、やっぱり君は立派なクマだな。
君は僕の一生涯の友達だ」
ハックルはジョニーベアのその言葉に心を打たれてそう言いました。そして一生涯の友達の為なら
何でも手助けしようと思いました。
するとジョニーベアが、
「いい事を思いついたぞ、ハックル。
君に頼みがある。
君がほら穴を探してきてくれ。
僕は向こうにある大きな樫の木の下で、
吹雪を避けて、このクマが凍え死なないように
温めておく。吹雪の中をのそのそ歩いて探すより、君の早い足でほら穴を見つけ出してきてほしいんだ」
「うん、そうしよう。
絶対にほら穴見つけてくるから、
それまで絶対にこらえてくれよ、ジョニー」
「あの大きな樫の木が僕がいる目印だからね」
「ようし、分かった」
ハックルはそう言うと
ジョニーベアの頭から飛び降りて走りだすと、
あっという間に雪の中に見えなくなってしまいました。
 
―――つづくーーー

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