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ジョニーベア【12】2400文字

【12】森の仙人 ガンダルベア 前編
 
ジョニーベアはほら穴の奥で
背を向けて寝ていた
クマに近づいていくと、
驚かさないように小さな声で尋ねました。
「寝ているところにすみません、
友達が凍え死にそうなのです。
ここでしばらく休ませてもらえませんか?
ただ休ませてほしいのです」
ジョニーベアの声が聞こえたのでしょうか、
横になって背を向けていたクマは
ゆっくりと体を起こして振りむきました。
そのクマは年老いていましたが、
堂々としていて、
体の毛は銀色に輝き、
長い口ひげを蓄えていました。
 
年老いたクマは
眠りまなこで大きなあくびをすると、
「こんな時分に何かと思ったら客人かね。
自分のほら穴はどうした?」
と目をこすりながら言いました。
「すみません、
僕は北に行く旅の途中で、
この冬も歩いていたのですが、
一緒に旅をしていた友人が
凍え死にそうなんです」
ジョニーベアはそう言うと、
脇に抱えていたハックルを取り出して、
手のひらに乗せると年老いたクマに見せました。
「君の友人とは、
その手のひらで丸まっているリスの事かな?」
年老いたクマは目をパチクリさせて言いました。
「眠りこけていて、
頭がまだうまく回転していないのか、
何だか事情がよく飲み込めん。
真冬だというのに、
旅をしているクマとリスが
凍えそうになって、
ワシのほら穴に
助けを求めてきたというのか?」
年老いたクマはそう言うと、
ジョニーベアの手のひらの上で丸まっている
ハックルに鼻を寄せて嗅ぎました。
「うん、まだ生きておるな。
大丈夫だぞ、すぐに温めてあげないとな。
向こうで光っているキノコのところで
寝かしてやりなさい」
年老いたクマにそう言われて、
ジョニーベアがほら穴の中を見渡してみると、
見たこともない色んなキノコが
ここかしこに生えていました。
ジョニーベアはその中にあった、
明るく光るキノコのあたりに行きました。
そのキノコは光るばかりでなく、
ひなたのように暖かいキノコでした。
ハックルをそのキノコの上に寝かせると、
「僕の名前はジョニーです。
ご親切に助けてくれてありがとうございます」
とお礼を言いました。
「気にすることはない。
ワシの名前はガンダルじゃ」
ガンダルベアは答えながら、
そこかしこに生えているキノコをつまんでは、
木でできたお椀の中に入れていきました。
「ジョニー君よ、
さっき君は旅をしていると言っていたな」
「はい、北の夜空にある七つ星に向かって
歩いています」
「ほほぉ、まさかそれは楽園森を目指して
旅をしているんじゃなかろうか」
ガンダルベアが楽園森と言うのを聞いて、
ジョニーベアはドキリとしました。
ガンダルベアは楽園森の事を
何か知っていると思ったのです。
「はい、その楽園森を目指しているんです」
「そうか、そうか楽園森か。
久しぶりに聞く森だのぉ。
まぁ、こんなほら穴で良ければ
何日いても構わんぞ。
わしもな、長らく誰とも話してなくて、
淋しい思いをしとったんじゃ」
ガンダルベアは木のお椀に入れたキノコを
棒ですりつぶしながら、話を続けました。
「楽園森を見つけるとは
さぞかし大変な冒険じゃのう。
それに冬の渡り歩きなんて、
無茶な旅をしているもんじゃな」
そう言うと、お椀の中ですりつぶしたキノコを
指先につけて舐めました。
「うん、これでいい感じじゃ。
このミックスキノコのペーストを
君の友達の口に入れてやりなさい」
ガンダルベアはそう言って、
お椀をジョニーベアに渡しました。
「もちろん、ジョニー君も食べて大丈夫じゃよ。
腹も減っているじゃろ」
ガンダルベアにそう言われて
ジョニーベアはミックスキノコのペーストを
一口食べてみると、
なんとも不思議な味が
口の中に広がっていきました。
甘くて、苦くて、酸っぱくて、
口に入れた時はねとねとしているのですが、
口の中でとけるようにクリーム状になると、
喉をスーッと流れていきました。
すると体が暖かくなってきて、
元気も湧いてきました。
ジョニーベアはその初めて食べる
ミックスキノコのペーストに驚いて、
「なんなんですかこれは、
すごく元気になるキノコですね」
と思わず大きな声を出して言いました。
「だから、早く君の友人の口にも
入れてあげなさい」
ガンダルベアが微笑みながら、
急かすように言いました。
 
ジョニーベアがハックルの口に
ミックスキノコのペーストを入れてあげると、
ハックルは少し口をもぐもぐと動かしました。
固く縮こまっていた体が
やんわりとほぐれていくのが分かりました。
そして呼吸も深く整ってくると、
落ち着いて寝入っている様子に見えました。
ジョニーベアは安心すると、
急に涙がこぼれてきました。
そしてガンダルベアに
「僕の友人を助けてくれて、
本当に本当にありがとうございます」
ガンダルベアは銀色に輝く
長いひげをさすりながら、うなずきました。
「ところで、楽園森がどこにあるのか
目星はついているのかな」
ガンダルベアが聞きました。
「はい、亡くなった僕のママが夢に現れて
北の夜空の七つ星を教えてくれたんです」
「そうか、そうか、
それで北の七つ星を目指して旅しているんだな。
七つ星を夢の中で見たとなると、
それは確かなメッセージじゃのぉ」
「ガンダルさんは楽園森の事を
何か知っているんですか?」
ジョニーベアは聞きました。
「楽園森、
我ら森の動物たちが夢見る楽園だよの」
ガンダルベアはそう言うと、
銀色に輝く毛を優雅に揺すりながら、
どかっと座りました。
「ジョニー君、
ちょっと君もゆるりとそこに座って
ワシの話しを聞いてくれんかの。
君の冒険に少しは役に立つ話しも
できるかもしれんしな」
ジョニーベアはガンダルベアに促されて、
向かいに座りました。
真冬のほら穴の奥で、
金色に輝く若いクマと銀色に輝く老いたクマが
向かい合って座っていました。
ジョニーベアはゴクリとつばを飲み込むと、
ガンダルベアが話すのを待ちました。
「遥かなる北を目指して
ワシもその昔に歩いたものよ」
ガンダルベアはそう言うと、
息を大きくついてから話しを続けました。
 
―――つづく――― 
あと2回予定なのですが、、、