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「来訪者」

朝 明るくならぬうち
安アパートの玄関ドアが開き
人が入ってきた

誰だ

ガラリと部屋の戸を開ける
母だ
両手に何やら荷物――
買い物袋を提げている

お母さん――
ぼくは二十歳すぎた学生だが
母は八十路をはるかに越え
元気そうだが
緑内障で目も暗く
歩くのも覚束ぬはず
それでも上京し
ひとり暮らす息子に
会いにきた――

荷物を解くと
母は料理を始めた
朝ご飯を作る

何も言わぬ母
狭い台所でまな板の音がする

布団の中でまどろみながら
ぼくは
「ありがとう」と心の中で言った

そんなことは一度もなかったのに

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