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■自分の感性、感情にはまった

「詩集」を読んで(9)

中桐雅夫「会社の人事」 (晶文社、1979年10月刊)

表題作でもある「会社の人事」は、多くの現代詩のアンソロジー(選集)に採用されている。そうした中の1冊で読んで、面白いと思い続けていた。4行4行4行2行計14行、起承転結の流れを取るソネット形式で書かれた短い詩だ。
初めてこの詩に触れた時から、わかりやすく、サラリーマン経験者なら誰しもが共感するような内容に惹かれた。
今月4日に、本歌取りのように僕自身も「会社の人事」を書き、先週末には通うカルチャーセンターの詩作講座でも提出した話を書いた。
その詩集をようやく、図書館で借りて読んだ。

62編の詩が収録されているが、ほとんどがソネットで長くなく、わかりやすい言葉で、多くの詩に「なるほど」と思え、共感できた。
西原大輔の「日本名詩選3」は、筆者・中桐雅夫(1919-83)の横顔を、「妻の回想記によると、『夫婦仲は悪く、酒浸りの生活を送った』」と紹介している。
この詩集にも、それをチラリとにおわせるような作品もあるが、新聞記者出身でもあり、だいたいが「世の中」に対しての彼らしい視点で書かれたものが多い。
本詩集の見返し(表紙を開いた部分)にも「戦いと飢えで死ぬ人間がいる間は おれは絶対風雅の道はゆかぬ」と決意表明し、「簡潔な言葉とともに吐き出す、市井に生きる人びとのための詩集」だとしている。

さまざまな詩があり、詩人がおり、多様性は結構だが、より多くの人の心に届き、共感でき、深みがある―それが理想だ。
そういう詩を読みたいし、僕はそうした詩を書きたい。中桐のこの詩集には、僕自身の感性に重なり、共感できるものが多く、学ぶ点が多かった。

大正時代の後半に生まれた中桐。同世代の男の多くが戦争に取られ、命を落としている。その体験と感情をあらわにした作品はこの詩集にないが、そうだと感じさせるものがいくつもある。
その信念を彼の作品から感じ取った。


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