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【夢の詩】「ぼくのシネコン」

TOKOシネマズへようこそ
きょうも 脳内スクリーンには
あなたが本当にお望みの物語
堂々 総天然色大パノラマ映像で
お楽しみいただけます
ほかにお客さまはおりません
足を伸ばすなり 横になるなり
周りを気にせず
楽な姿勢でご覧ください
声をあげても 座席―ハナからそんなものはないですが―
けっても無問題

ブー

鏡を磨いている
曇りにくもったそれは ずいぶん古く
磨いてもみがいても
ぼくの顔がぼんやりと映るだけだ

さっきまで取材に行っていたのだ
どこかの つぶれかかった銀行の
どうでもよい話を原稿にした
それを出したばかりだ
なぜか 記事は他社の新聞に載るという
どうなってしまったんだ 新聞業界

ああ つぶれかかかった銀行の幹部の家へ
夜回りに行かないといけない
地下駐車場で待伏せしようか
ぼくはビル地下へ向かった
どこまでも階段を下り
暗いくらい通路を歩き続け――

ブー

ぼくは 親戚の集まりに顔を出した
何十年ぶりだろうか
大人も子供も大勢いて
夜になり
さあ寝よう

みなが映画だかアニメだかのビデオを見ながら
布団を敷いて横になった
そこに 幼馴染の従妹で
ぼくの中学のブラスバンドの後輩だった久世がいた
なぜ 彼女が――

思う間もなく
彼女とぼくは ひとつ布団にいた
彼女のこと ずっと好きだったんだ
夢のような気分
何を話し 何をしたのか
周りに親戚がいるはず…

気づくと女は 従姉の敬子ちゃんだった
ひとつ年上 顔立ちのきれいな人
確か 一度離婚し 再婚後3人か4人子供を生んだって…
今 同じ布団にいる
腕を伸ばし 彼女の頭がその上にのる
体は密着する
だが
ぼくの 自身と自信は
「それ」には応じない
もう 反応もない
その気持ちはあるのに
――なあ と思う
幼児おさなご
おかーさーん
と やってきて
敬子ちゃんは 無言で布団を出て行った

ぼくは薄暗がりの中にひとり

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