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【祈りの詩】「くらげたち」

さまよって おられる
ただよって おられる

東京の東に流れる 隅田川

唱歌「花」でうたわれる
春のうららの――櫂のしづくも 花と散る
というイメージは
実際の川の姿とは違っていた
それほど大きくもない川
そう思っていた
川幅は概ね200メートルはある
何百人もの客を乗せた遊覧船がゆく
東にスカイツリー 西に浅草寺がある
それが隅田川だ

川べりを走る ぼくの目に
白い姿をさらす くらげたち
橋の下 水が淀むところに
何十もの くらげたち
東京湾から潮に流され
浅草までやってきた

多くは引き潮に流され
その日のうちに海に戻るのだが
水の流れのないところに
くらげたち
暗い色をした水面に
白いくらげたち

79年前の今ごろ
おびただしい人々の亡骸
同じ川面にあった

生活の記憶を載せた船は亡骸となり
潮に乘って 何日も漂ったという
くらげたちと同じ
何千 何万もの「人」を
簡単に掬い上げられなかった

彼ら彼女ら 幼児から年寄りまで
きのうからきょう
きょうからあす
続く日常を断ち切られた
人びと

そこにいたのです そこに
79年前の この川に

その姿 景色を 今に投影してみる
川面を見つめながら
ぼくは 「想像」する

日常の終点が そこであるという
悲劇を……
そして
過去と現在
あちらこちらで 続いている事実を知る

受け容れられない 哀れなることごとに
少し考えを向けてみる

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