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■「陛下ご懸念」長官発言報道 新聞は死んだ


マスコミへの道(44)
新聞、放送、出版…マスコミ志望の方々へ

記者として三流以下、本社の部長にもなれなかったマスコミ界で長年働いた私が、マスコミ、世相についてあれこれ書き綴る。マスコミ志望、就職を考える人のヒントになれば…。

24日夕方、超ド級(原義は1906年建造の英艦船ドレッドノートを上回るきわめて大きいサイズの軍艦を指し、転じて大きなものを表す言葉になった)のニュースが飛び出した。

以下のヤフーニュース(ソースはFNNプライムオンライン)である。
宮内庁長官「陛下が五輪ご懸念と拝察」発言に加藤官房長官「宮内庁長官自身の考え」

翌25日昼までに、ヤフーでは1万を超えるコメントがついた。
いくつも同じニュースが報じられているので、それぞれについたコメントを合計すると膨大な数だろう。それほど、「天皇陛下も五輪開催に反対しているんだ」と多くの国民(あくまでヤフコメ民レベルだが)が思った。

しかし、25日の東京で発行される主要6紙の扱いは、驚く、いや予想されたことだが、超ド級のニュースをきわめて小さく扱った。
各紙の、記事の扱いは以下のとおりだ。

2面 =東京、読売
1社肩=日経
1社下=毎日
2社 =朝日、産経


以前、■オリンピックは事実上の中止 マスコミへの道(30)でも書いたが、一番新聞社として世間に知ってほしくない、それでも一応載せておきました的な記事は2面に載る―とした。2面という場所は新聞の「塩対応」の最右翼なのだ。
オリンピック開催反対の論陣を張る(はずの)朝日はじめ、東京、毎日などは、「天皇陛下 東京五輪開催に反対の意向」と一面ぶち抜きで報じてほしかったが、どこもそんなことはしなかった。
ニュースが入ってきたのが、締め切りギリギリ(だいたい午前1時ごろ)とかならともかく、宮内庁長官会見の発言の一報が流れたのは24日午後3時前である。時間は十二分にあった。
天皇・皇室に関するニュースは盲目的に大きく扱う産経新聞ですら、この陛下の「発言」はなかったものにしたいほど、小さい扱いだった。

「天皇は憲法上、政治的な発言、動きはできません(日本国憲法第四条)。今回の長官発言は事実上それに反して陛下の心中を〝拝察〟などという言い方で、世間に問うたわけで極めて重い」とは、全国紙の元政治部記者。

先の6紙のうち、憲法に絡めてこのニュースを報じたのは、識者談話の形で「開催反対派の意見を権威づけることにつながる…」などと論評したのは、朝日だけだった。
いずれにせよ、極めて地味な扱い。
これについて、先の記者は「皇室には昭和天皇の弟君である三笠宮崇仁親王(1915-2016)が、〝赤い宮様〟と言われたように、案外反体制的というか、リベラルな考えを持つ人が伝統的にいるのです。上皇陛下も愛読紙は朝日だと言われるし、そのご長男である今上(きんじょう、当代の天皇)さんも柔軟な考えをお持ちであり、明らかに前政権、そして現政権のやり方に不満を持っている…と思われてもおかしくない」と解説する。
これをもうちょっと説明すると、平成以降の大きな皇室ニュースとして、最近の「陛下退位のご意向」(2016年7月13日)、「眞子さまご婚約」(2017年5月16日)はNHKがスッパ抜いたが、それ以前には、「礼宮と川嶋紀子との婚約」(1989年8月26日)など皇室ネタは朝日がスクープすることが多かった。すなわち、天皇家・皇室に朝日シンパがいた、ということである。

各紙は、世間の反応をみながら、26日以降の紙面で展開はするだろう。しかし、朝日だろうが産経だろうが、しょせんはビジネス左翼、ビジネス右翼的な新聞なのである。こういう微妙な、極めて微妙で流動的なネタは慎重に扱わざるを得ない。

これだけのニュースを第一報段階で、ほぼ無視し、報道姿勢も明らかにできないのでは、日本の大手各紙は香港リンゴ日報の休刊も海の向こうの話とは思えない。


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