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家庭医の未来

診療所に入ると、 顔認証システムが反応し、今日の予約が確認された。

今日はどうされましたかなんて聞かれることもなく、無料のコーヒーサーバーからコーヒーをとって飲みながら待っていると、登録してあるiPhoneにメールが届く。1番。

1番診察室のドアにタッチして入室すると、ロボットナースが待っており、ソファに腰掛けるように言われる。少しだけ天気の話をしたら、あとはテレビのYouTube画面を見て待つ。

程なく家庭医が現れて、にこやかに挨拶してくれる。子供の頃からというより生まれる前から見てもらっている先生。母親が子供の時からかかっており、結婚したあともかかり続け、妊娠したこともここでわかったらしい。そのせいで生まれる瞬間だけ産婦人科に移されたもののすぐにここに通い始めている。予防接種もすべてロボットナースが決めてくれて、家族のスケジュールに合わせてくれる。中身はすべてGoogleカレンダーと同期されるのでわざわざ来院したりしなくていい。それは大人になるまで続き、歳を取ってもその都度健康診断の予定が知らされてくる。ほとんど健康について考えることなくこの診療所にお任せの状態にできる。自分で検査を希望したことなどない。検査しても何も本当のことはわからない。少し不安が取れるだけだ。

先生は少し歳を取ってきたけれど今も若々しい。いつまでここにかかることができるか心配だけれど、どうやら何人かの先生で仕事をシェアしているようなので大丈夫らしい。中には若い研修医もいるがこの辺りの地元の子らしく多分長く勤めてくれるだろう。自分の子どももここにかかれると嬉しい。

ロボットナースがいるのは看護師が足りないせいらしいがそれほど違和感がない。というより見た目はほぼ人間と変わらないのでロボットと意識することはない。ルーティーンらしい仕事はきっちりこなすし、第一忘れることがないのは一番の利点だろう。

ここの先生は家庭医だけれど、昔は日本にはあまりなかった専門らしい。そのころどうやって患者はみてもらっていたのだろうか。ネットで自分の症状を検索してから受診するとか考えられない。だいたいこの診療所に来れば、こちらの体調はサーモスキャンを通してデータ化されるし、ナースが先にバイタルを取っているから先生は問診するだけでいい。こちらから何かを訴えることなどないのだ。脳内のドライブレコーダーが数日の行動を記録しているものを問診としてスキャンするらしい。なんでもここの先生はそんなことしなくても診断できるらしいんだけど。総合診療医とか昔は家庭医とか言っていたらしいけど。いまは当たり前すぎて何か専門技術を持った医者なんて駆逐されたんだ。だってそんなものはロボットで十分。人間はもっと複雑なことを考えるべきなんだ。

さて、今日は風邪をみてもらおう。

#家庭医 #総合診療 #小説 #未来 #ロボット

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