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映画史に残るほど、忌々しくてものすごいパワーを持ったごはんシーン|『三姉妹』

韓国映画『三姉妹』を鑑賞しました。
ポスターから感じる優しい雰囲気とは裏腹に、思っていた以上にヘビーで忌々しくて、だからこそ愛おしくて、ものすごいパワーを持った作品でした。

ドラマ「愛の不時着」のキム・ソニョン、「オアシス」のムン・ソリ、「ベテラン」のチャン・ユンジュが三姉妹を演じ、韓国の主要映画祭で多数の女優賞を受賞した作品。

三姉妹を演じる俳優陣の演技が凄まじく、映画終盤に向けて心の傷や苦しみを徐々にむき出していく様は圧巻でした。本当にすごかった…!

(C)2020 Studio Up. All rights reserved.

大丈夫なふり、完璧なふり

長女ヒスクは、元夫の借金を返済しながら女手一つで育てる娘にも疎まれている。次女ミヨンは高級マンションで家族と暮らし、模範的な信徒として熱心に教会に通うが夫が浮気をしている。三女ミオクは劇作家だがスランプに陥って酒浸りの日々。

大丈夫なふり、完璧なふり。
映画前半から地味だけどリアルに「しんどい毎日」が描かれ、観ているだけなのにチクチク…チクチク…痛みを感じる。なぜこの三姉妹はこのような言動・行動をするのだろうと疑問を持ち始めます。

そして映画終盤に明るみになる幼少期の出来事。わたしたち観客が彼女たちの過去を知った瞬間に、それまで画面に映ることがなかった家族も登場し、爆発する三姉妹の感情。
家父長制を自分の子供たちには残さない、そんな女たちの強い意志を感じる、映画史に残る名シーンだと思いました。

パンフに掲載されている、父権社会や信仰など
韓国ならではの社会・文化的背景を理解できるコラムは必読

本作の主演であり共同プロデューサーのムン・ソリさんが、
「三姉妹を演じたわたしたちには、 それぞれ娘がいます。 彼女たちが暴力や嫌悪の時代を越えて、 明るく、堂々と笑いながら 生きていけるような社会になって欲しい、 という願いを込めた作品です。」
と語っており、三姉妹が少しでも希望を見つけようとするラストは、不思議と爽やかな気持ちを残してくれました。

前半に登場しない家族の存在を、映画終盤で出す脚本が巧すぎる

本作『三姉妹』のポスターに記載されている「忌々しいけど、愛してる。」というコピーは、一筋縄ではいかない家族という存在をとても上手に表していると思いました。
そう。何があっても「愛してる」ということがお互いに分かっていれば、それが未来に繋がるはずなんです。

▼▼『三姉妹』に登場するごはん▼▼

本作では食べるシーンが多数登場するのですが、美味しく楽しい食卓とは真逆の、不穏で(人によっては不快とも感じられる)インパクト大の食事シーンでした!
映画の食卓や食事シーンは、登場人物の健康状態や精神状態、人との関係性がよくわかる非常に面白いシーンなので、不穏であればあるほど興味深いです。

カルグクス
次女ミヨンと三女ミオクが食べているのは、カルグクスという韓国のポピュラーな麺料理。劇中で料理は映らないのですが、貝を取り分ける音で、あさりのような具材が入っているのかな、と想像します。
ミオクが片膝を立てながら(※自宅ではなくお店で食べてます笑)、麺とスープをすする姿に、さぞ出汁が出てるだろうなぁと、食べたことがない料理に想いを馳せます。

公式Twitter:https://twitter.com/threesistersjp/status/1542766997171097600

ほかにも映像にはあまり映らなかったり、セリフのみに登場する料理としては、ヘジャンクク(酔い覚ましに用いられるグク)や、ホヤと焼酎などが登場。

ミオクがよく食べるスナック菓子は、音も印象的に使われていました。(電話越しでお菓子を食べる音を、吐息のように聞かさせるのは面白い)

次女ミヨン宅の、祈りが必要な食事シーン
長女ヒスクの、娘との不協和音な食事シーン
そしてラストを飾る、インパクト大の食事シーン


三姉妹を描く映画たち

三姉妹のドラマを描く作品として、アン・リー監督『恋人たちの食卓』も大好きな作品です。こちらは劇中に登場する中国料理が見事で、調理シーンも美しい作品です。

香港映画『花椒(ホアジャオ)の味』は、異母姉妹である3人が父親の死をきっかけに出会い、それぞれ微妙な家族関係の中で生きる自身の葛藤と向き合っていく。鑑賞後は、麻辣火鍋が食べたくなる素敵な作品です。

伝記映画『宋家の三姉妹』には、巨大な月餅が出てくるはずなのでもう一度見直したいなと思っています。


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