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優しい嘘から始まる映画の食卓|『フェアウェル』

現在公開中の『シャン・チー/テン・リングスの伝説』がとてもとても面白くて、出演しているオークワフィナ主演作品『フェアウェル』について書きたくなりました。

『フェアウェル』は、祖国を離れて海外で暮らしていた親戚一同が、余命わずかな祖母のために帰郷し、それぞれが祖母のためを思い、時にぶつかり、励まし合うながら過ごす日々を描いたハートウォーミングドラマ。

全米わずか4館で公開されると驚異的な大ヒットを記録し、館数が桁違いの大作群の中で全米10位にランクイン。第77回ゴールデングローブ賞では、主演オークワフィナがアジア系女優初の主演女優賞を受賞した作品。(配給は話題の映画スタジオA24です)

『フェアウェル』ストーリーは、
ニューヨークに暮らすビリーは、中国にいる祖母が末期がんで余命数週間と知らされる。この事態に、アメリカや日本など世界各国で暮らしていた家族が帰郷し、親戚一同が久しぶりに顔をそろえる。アメリカ育ちのビリーは、大好きなおばあちゃんが残り少ない人生を後悔なく過ごせるよう、病状を本人に打ち明けるべきだと主張するが、中国に住む大叔母がビリーの意見に反対する。中国では助からない病は本人に告げないという伝統があり、ほかの親戚も大叔母に賛同。ビリーと意見が分かれてしまうが……。
(映画.comより引用)

中国には、「がんで死ぬ人は、がんではなく、恐怖に殺される」と助からない病は告げないという伝統があるそう。それゆえ、家族たちは祖母本人に病気のことを知られないよう嘘をつく。
しかし、ニューヨークで暮らし半分アメリカ人として生きるビリーは病気のことを隠すのは犯罪だ、告知するべきだと、米国と中国の価値観の違いに戸惑います。

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ルル・ワン監督の実体験が元になっている本作。
この優しさから生まれた嘘に葛藤する親戚一同を、時にコミカルに、時に切なく描いています。監督自身も、中国からアメリカへ移住しており、主人公と重なる部分があります。

死生観は、国によってかなり違いますよね。
日本では、末期癌患者本人に対する告知の有無は医師の裁量の範囲内にあるという記事を見たのですが、最近では本人も告知を希望する人が増えているそうです。
私だったら、たぶん自分自身の状態を知りたいと思うけれど、大切な人が不治の病になった時、ありのままを伝えて悲しませることが正しいのか、きっとその時になってみないと分からないのだろうな。
本作で祖母を想う優しさに葛藤する家族の姿を見ていると、真実を伝えるだけが正解ではないのかもしれないと思えました。

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▼▼『フェアウェル』に登場するごはん▼▼

アジア映画の食卓は、本当に品数が多く、観ているだけで楽しいです。テーブルの真ん中に大皿でドンッと置いてある料理を取り分けるスタイル。「ちゃんと食べな」とごはんの上におかずを乗せてくれるのは、中国や韓国の食卓でよく観ますね。丸い円卓もいいなぁと思った。

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肉餅(ローピン)
ビリーの帰国を喜んだナイナイが作る肉餅。(ナイナイは中国語で祖母)
日本だとおやきに似た、中華風ミートパイ。たっぷりの油で揚げるシーンも出てきますが、大きくて、まん丸な肉餅にビリーがパクリと食べるカットが可愛い(この時、ビリーは病気のことが心配で食欲がないのですが…)

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監督のTwitterの可愛い写真。中華揚げパン「油條(ヨウティアオ)」を食べようとしてる写真でしょうか。キュートな撮影現場ですね!
おかゆから始まる朝食もいいな〜。

監督のインタビューを読むと、食事シーンはロマンチックでなく、理想化されておらず、フードポルノにならないように、あくまでリアルとして描いたそう(この記事の意訳です)

この意図はとても成功していると思っていて、遠方からやってくる親戚一同に、美味しい手料理を用意するナイナイと、祖母の病気が心配で食事が手につかないビリーの対比も食事シーンで上手く描かれていました。
(とても美味しそうなのに、心情を思うと食欲が出ないという、食事だけを良く魅せようとしない感じといえば伝わるでしょうか)

末期がんという非常事態でも食べること・料理を作ることは日常なんですよね。大おばや母親たちが食事を準備する風景もよかったな(お父さんたちは座ってて手伝ってなかったなぁ)

ほかには、弟の結婚式での盛大な料理や、レストランで食べるシーンも登場します。

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中国で生まれ6歳で両親とともにアメリカへ渡ったビリーは、二つの文化をバックグランドとして持ち、その狭間で葛藤しますが、これは多国籍なルーツを持つ演者やスタッフが関わっている『シャン・チー/テン・リングスの伝説』や『イン・ザ・ハイツ』からも通じるメッセージを受けました。

移民2世3世のアイデンティティーの揺らぎは、私には想像することしかできませんが、故郷がないことによる孤独と不安はきっと大きなものだと思います。私は『フェアウェル』のラストシーンで、少し温かな希望を感じました。ニューヨークに帰ってきたビリーですが、どこかで繋がっていると思えることができれば、それがアイデンティティーになるのかな。

21年9月現在、まだ各種配信サイトで『フェアウェル』は見放題になっていないようで、U-NEXTやアマプラでレンタルしてご覧ください〜

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▼『イン・ザ・ハイツ』に関して書いた記事はこちら

▼参考に読んだ記事

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