優しい気持ちと英国ごはん|『ゴヤの名画と優しい泥棒』
2022年2月25日に劇場公開される『ゴヤの名画と優しい泥棒』という作品を、一足早くオンライン試写会で鑑賞させてもらいました。
2021年9月に亡くなった「ノッティングヒルの恋人」のロジャー・ミッシェル監督作で、本作が長編劇映画の遺作となりました。
1961年に世界屈指の美術館ロンドン・ナショナル・ギャラリーから、ゴヤの名画「ウェリントン公爵」が盗まれました。なんとこの事件の犯人はごく普通のタクシー運転手である60歳のケンプトン・バントン。本作はこの実際に起こった名画盗難事件の知られざる真相を描いたハートウォーミングドラマです。
「ウェリントン公爵」は、画家のフランシスコ・デ・ゴヤによって制作された作品。半島戦争の後期に初代ウェリントン公爵となったイギリスの将軍アーサー・ウェルズリーが描かれており、1812年〜1814年に制作されました。現在もロンドンのナショナル・ギャラリーに所蔵されています。
もう一つ面白いエピソードを🙌
「ウェリントン公爵」は、1962年公開の007シリーズの第一作「ドクター・ノオ」に登場しています。映画公開時、ケンプトンによって盗まれた絵画はまだ見つかっておらず、盗んだのはジェームズ・ボンドの宿敵であるドクター・ノオという設定にしたようです。英国式ジョーク!
(007製作陣もまさか盗んだのが、ごく普通のタクシー運転手だなんて思いもしなかっただろうなぁ)
フェルメールやゴッホ、レンブラントなど画家の人生を描く映画や、美術館の裏側を捉えたドキュメンタリーなど、絵画をモチーフにした作品は様々な歴史を知ることができるから好きなのですが、本作でもまた一つ絵画に関する意外な歴史を知れて嬉しい。
長年連れ添った妻とやさしい息子と小さなアパートで年金暮らしをするケンプトンがなぜ、有名絵画を盗んだのか?決して自分の金儲けのためではない、その理由と最後の裁判シーンでの素敵なセリフは、優しい気持ちにさせてくれます。
▼▼『ゴヤの名画と優しい泥棒』に登場するごはん▼▼
1960年代の英国が舞台の本作。英国ならではの食事が登場して楽しい。
仲直りの紅茶とビスケット
テレビに社会との繋がりを求めていた時代。ケンプトンは貧しい人々に公共放送(BBC)の受信料無料を訴える活動をしていました。息子も巻き込んで、プラカードを掲げ、嘆願書を集める姿を見た妻ドロシーは我慢の限界!(ドロシーが一家の大黒柱として働いていたので、怒るのも当然です)
そこでドロシーと仲直りするために用意するのが、紅茶とビスケットでした。
わたしはコーヒー党なので、紅茶が登場するだけで英国の香りを感じてしまします。別のシーンでは、ドロシーがジンジャービスケットを紅茶に浸して食べるカットも一瞬出てきました。
紅茶にビスケットを浸して食べることを“ダンキング(Dunking)”というそうですが、紅茶に浸すことで双方がより高い香りや味わいを得られる、らしい。いつか本場で試してみたいなぁ!
英国式朝食と夕食
トーストや卵料理、ベーコンなどワンプレートにどっさりと盛られる英国スタイルの朝食を好む人が多いという記事を見ました。イギリスで一番おいしい料理は「朝食」と言われるとも書いてありましたが、本作でも目玉焼きやソーセージが朝食で用意されるシーンがありました。
そして夕食では、ソーセージとマッシュと言っていたので、確かに朝食の方が豪華なのかも。
公式Twitterで紹介されている漫画家・イラストレーターの竹内絢香さんが書かれた解説に素敵な朝食のイラストがありました!可愛い!
一斤食パンとポークパイとサンドイッチ
映画後半ではパンが登場。街のパン屋さんの店構えがシルバニアみたいで可愛かったです。最後は裁判の判決待ちで食べるサンドイッチも登場。マシュー・グード演じる弁護士が「チーズが最高」と言っていました。
絵画を盗んでから裁判までのストーリーもユニークなのですが、本作では、娘を亡くした夫婦の再生の物語でもあります。ケンプトンとドロシーは、悲しみの受け入れ方が異なるがゆえに喧嘩してしまうのですが、今回の盗難事件をきっかけに受け入れていく姿がとても良かった。
そしてラストの裁判シーンでは、胸に響く優しい気持ちになるセリフもあります。不安な日々が続きますが、「心優しき隣人」の哲学を大事にしたいです。
ぜひ劇場でご覧ください〜!
(C)PATHE PRODUCTIONS LIMITED 2020