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鎌倉で唯一のいちご農家と、いちご農家になりたい小学5年生の男の子が出会った話

まちのコインの想いに共感して参加してくれているスポットさんに、まちづくりに込める想いやつながりエピソードをインタビューするnote連載「スポットさんとまちのコイン」。

3回目となる今回は、鎌倉で唯一苺狩りができる「鎌倉観光いちご園」の郷原啓介さんにインタビュー。

今年まちのコインでリアルな農家作業ができるお手伝い体験を募集したところ、ある素敵な出会いにつながったと聞いて、おじゃましてきました。

「つながりはつながりからしか生まれない」いちご農家で新しい取り組みに挑戦する理由

――まずは、まちのコインを知ったきっかけについて教えてください。

3年ほど前から所属している公益社団法人鎌倉青年会議所のイベントがきっかけです。鎌倉青年会議所では月に一度、例会と呼ばれるイベントの企画・運営をしていて、2月の開催時にまちのコインを取り入れることになったんです。

ちょうど僕の所属している委員会の担当だったので、「鎌倉観光いちご園」もスポットとして登録しました。

ーー農家さんでまちのコインを導入するのは少し意外な印象もありますが、以前から新しいことに取り組んでいたのでしょうか?

いえ、僕がこのいちご園を継いだのが2011年なのですが、それから約10年間はとにかく真剣に仕事と向き合って仕事していたんです。

でもある時ふと、どんどん自分の視野が狭くなっていることに気がついて。それから鎌倉青年会議所に参加して、他業種の方と関わるうちにもっと自分も新しいことに挑戦してみようと。

たとえば今年は鎌倉ビールさんとのコラボ企画として鎌倉観光いちご園のオリジナルブランドである「紅静」をつかってビールを作ったんです。数量限定で製造したところ、発売日前の予約時点でほとんど売り切れるほど反響がありました。

いま農業って生産者が作物を製造・加工して、その販売までを担う6次産業化の流れが強いんです。だから僕もその形態を目指していたのですが、結局“餅は餅屋”だと思いまして。

たとえば、いちごジャムをつくるならジャムづくりのノウハウを持っている人とコラボした方が絶対いいものができるじゃないですか。大きな利益にはならないかもしれないけど、いいものが作れる。

多種多様なみなさんと新しいことに挑戦するほうが盛り上がるし、やったあとはいい経験になったなと毎回思いますね。大変なのは変わらないですけど、おもしろい。つながりって、つながりからしか生まれないですからね。

いちご農家になりたい小学5年生の男の子との出会い

――「リアルな農家作業ができるお手伝い体験」は個人的にもかなり気になっていたのですが、どんな目的で作成されたのでしょうか。

サービスとして楽しんでもらうためではなく、きちんと作業をお手伝いしていただくための体験として募集しました。

だから最初は「本当にお手伝いしたい人が集まるのかな?」と半信半疑だったんです(笑)。幼い頃から親父に早朝叩き起こされて農作業していた自分には、そんなニーズがあるなんて思わないじゃないですか。

そうしたら、まちのコインの運営メンバーの方から「普段自宅にこもってパソコン作業ばっかりしている自分にとって、外で身体を動かす用事があると嬉しい」って言われて。その結果、参加者の方から「楽しい」「達成感がある」と言っていただけて、意外でした。

――自然と触れ合う機会ってなかなかないですし、自分でなにか育ててみようとネットで調べても分からないことが多くて。農家さんに直接話を聞けるのは有り難いと思います。

たしかに言葉で聞いただけじゃわかりづらいことも、実際の作業を見たりやってみたりすることで理解しやすくなりますよね。

農家って基本的にすごい教えたがりなんですよ(笑)。ずっと一人で土と向き合って作業しているので。だから1個の質問に対して100個くらいの回答を返しちゃう。

じつはこの体験を募集して一番嬉しかったことがあって。「将来いちご農家になりたい」と思っている小学5年生の男の子が来てくれたんですよ。ほんとうに嬉しくて、子供相手に経営論まで話しちゃいました(笑)。

――経営論!(笑)。きっとその男の子も、いちご農家さんから直接教えてもらえて嬉しかったんじゃないでしょうか。

その子がいちご農家になりたいって思った理由が「家庭菜園でいちごを育てたときに楽しかったから」って聞いて、こんな純粋な気持ちで目指してくれているなら大事にしなきゃと……。

作業中の表情も真剣そのもの。終わったあとご両親から楽しんでくれていたって聞いて、安心しました。

いちご狩りのときはここまで話す機会がないので、まちのコインならではのつながりでしたね。

いちご狩りは、いちごを食べて楽しんでもらうもの。農作業体験は、いちごが育つ過程を楽しんでもらうもの。いちご狩りの時期だけではなく、オフシーズンも含めた1年間を通して楽しんでもらうこともできるんだと思いました。

鎌倉野菜をブームで終わらせない。技術ある農家とまちをつなげる架け橋に

――さまざまな取り組みをしている郷原さんですが、日々農家としての仕事との両立は大変ではないでしょうか。

そうですね。実際、ほかの活動をするなら農家としての仕事をやったほうがいいと考える人もいると思います。

それに6次産業化として、ひとりで全部やったほうがコストも工数もかからないし失敗もない。そのほうがビジネス的には理想的かもしれません。でも、その先に見えるものがあるならできるようにしていかないと。

少しでも自分の手から離れるよう、人の力も借りていく。まちのコインは、その手段のひとつでもありますね。

――本当に大切な作業を見極めることで、新しい挑戦に取り組んでいるんですね。その挑戦の先には、どんな未来を描いているのでしょうか。

いま鎌倉でつくられる野菜類は『鎌倉野菜』とのブランドがついて需要が増えていますが、この状態が続くかどうかはわかりません。

だからブームで終わらないよう、いいものを作り続けるために「強い農家」になりたいと思っています。そして、本当に技術ある農家が埋もれないよう周りも守っていけたらなと。

そのためにバックボーンにある農業を活かしながら、本当にいい野菜を作っている人、鎌倉のまちをよくしていきたい人との架け橋になれたら嬉しいですね。お互いのいいところを認め合いながら、新しい挑戦ができるように。

――この十数年をかけて地道に人脈づくりをしてきた郷原さんだからこそできる挑戦ですね。

元々はがっちがちに職人気質だった僕が挑戦する姿をみて、農家の知り合いから「あっちの世界に行っちゃったんだね」ではなく「あっちでも頑張っているらしいよ」と言ってもらえたらいいなと思っています。

こんな話、農家の人が聞いたら「調子に乗ってる」って言われるかもしれませんけどね……(笑)。


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