見出し画像

労働審判の目的はあくまで和解すること

労働審判は労働に関する紛争を早期に解決するための制度。100%満足できるものではないにせよ、申立人・相手方双方が「これなら納得せざるを得ない」と思う金額ラインを、原則3回以内の期日に探るものです。

例えば、大雑把には、このようなケースです。申立人は、未払い残業代を100万円請求。相手方は、申立人は管理監督者(「管理監督者性」については、改めて解説します)の地位にあったのでそもそも残業が不存在と主張。労働審判委員会による審理・調整の結果、申立人は30%譲歩した70万円で納得。相手方は、申立人の主張を認めるわけではないものの、双方がこれ以上の債権債務はないことを確認することを条件に、70万円の解決金を支払うことに合意。

労働審判では、民事訴訟の判決にあたる「労働審判」を出すよりも、まず調停(和解)を目指します。もし調停が成立しない場合は、原則として第三回期日のその場で「労働審判」が告知されます。

では、その「労働審判」に不服がある場合はどうなるのか。不服がある当事者は裁判所に対して異議の申立てをすることができます。「労働審判」の告知日から二週間以内にどちらかの当事者から「異議の申立て」があれば、「労働審判」はその効力を失います。そして、労働審判手続き申立ての時に管轄する地方裁判所に民事訴訟の提起があったものとみなされます。トラブル解決は自動的に民事訴訟に移行するのです。

つまり、『地方裁判所での労働審判 ⇒ 地方裁判所での民事訴訟』という審理ステージの移行。東京地方裁判所に申し立てられた労働審判手続きで出された「労働審判」に異議の申立てがあった場合、もともと東京地方裁判所に民事訴訟の提起があったものとされるのです。ただし、例えば労働審判は民事第11部、民事訴訟は民事第19部といったように、事件を担当する部署は変わることになります。

この異議の申立てに伴う審理ステージの移行は、『地方裁判所 ⇒ 高等裁判所』または『高等裁判所 ⇒ 最高裁判所』といった民事訴訟の上訴とは制度的に異なります。

民事訴訟では、出された「判決」に不服がある場合は上訴することになります。地方裁判所による判決であれば、管轄する高等裁判所への上訴(控訴)。高等裁判所による判決であれば、最高裁判所への上訴(上告)です。なお、民事訴訟でのこれら上訴には、必要な手続きや求められる条件などがあります。この辺りについては、改めて解説することにしたいと思います。

さて、次回からは、「労働審判手続申立書」や「証拠説明書」など、労働審判を申立てる時に裁判所へ提出する書面について解説していきます。より具体的、より実務的な内容になると思います。どうかお楽しみに!第12回へ続く。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?