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本人訴訟で未払い残業代を請求する(56)-答弁書を詳解する5【相手方の主張】

第48回第49回第51回第53回のnoteで、労働審判での相手方が作成・提出する答弁書について解説してきました。今回のnoteでは、答弁書の最後の部分、「第3 相手方の主張」について解説したいと思います。

おさらいですが、答弁書は次の三部構成となっています。

第1 申立ての趣旨に対する答弁
第2 申立ての理由に対する認否
第3 相手方の主張

まず『第1 申立ての趣旨に対する答弁』では、申立人の「〇〇を請求する」という「申立ての趣旨」に対して定型句「申立人の請求を棄却する、との労働審判を求める」として相手方の明確なスタンスが述べられます。『第2 申立ての理由に対する認否』では、申立人が「申立ての理由」に記載した内容に対して「認める」「否認するないし争う」「不知」のどれかが一つ一つ述べられます。

そして、『第3 相手方の主張』。この箇所は、相手方が『第2 申立ての理由に対する認否』での認否に整合するかたちで自らの主張を展開する箇所です。『第2 申立ての理由に対する認否』において既に相手方の主張やその立証が述べられることもありますので、その場合『第2』と『第3』の記述内容がある程度は重複することになります。未払い残業代の請求の場合、第51回noteで述べたように、

■「申立人は会社の従業員ではなかった」
■「申立人は管理監督者であった」
■「申立人には固定残業代制が適用されていた」
■「申立人には裁量労働制が適用されていた」
■「申立人の書証のタイムカードは信用できない」

などといった相手方による主位的主張や予備的主張が展開されることになります。もちろん、相手方としても主張を裏付ける書証を提出し、自らが主張する事実を立証をする必要があります。

こうして、申立人の「労働審判手続申立書」相手方の「答弁書」が出揃ったところで争点が明確になります。先の相手方の主張の従えば、

■ 申立人は会社の従業員であったか、否か
■ 申立人は管理監督者であったか、否か
■ 申立人には固定残業代制が適用されていたか、否か
■ 申立人には裁量労働制が適用されていたか、否か
■ 申立人の書証のタイムカードは信用できるか、否か

といった点が争点となるのです。そのような争点については、労働審判委員会が労働審判の第一回期日の最初の1時間を使って当事者の答弁・陳述をもとに証拠調べを行い、認め得る事実を明らかにしていき、心証を形成していくことになります。ここでの証拠調べは、労働審判委員会(労働審判官1名と労働審判員2名)、申立人陣営、相手方陣営の全員がいる場で、労働審判委員会 対 申立人の直接の質疑応答、労働審判委員会 対 相手方の直接の質疑応答を通してとなります。この時、代理人弁護士が雄弁をふるったりすることはほとんどなく、基本着席しているだけです。

ちなみに、申立人にもし時間の余裕があれば、申立人は答弁書を受けての「反論書」や「争点整理表」といった第一準備書面を第一回期日の前に作成・提出することもできます。しかし、その内容が「労働審判手続申立書」と相当程度ダブルならさほど必要はないでしょうし、労働審判委員会が「申立書」にくわえて追加の準備書面にも目を通す時間があるか疑わしいでしょう。なお、「争点整理表」については、裁判所書記官から作成・提出を要請される場合もあります。

民事訴訟には労働審判のように原則3回以内の期日といったルールはないので、基本的には口頭弁論期日毎に準備書面のやり取りが発生します。原告なら「原告 第一準備書面」「原告 第二準備書面」・・・、被告なら「被告 第1準備書面」「被告 第2準備書面」・・・といった具合です。一方で、労働審判の場合は、おおかた、申立人なら「労働審判手続申立書」(+証拠説明書+書証)、相手方なら「答弁書」(+証拠説明書+書証)といった書面を第一回期日前に作成・提出するだけで済みます。また、労働審判には「遅くとも第二回期日が終了するまでには書証の提出を終えなければならない」という運用上の決まり(労働審判規則第27条)がありますので、申立人も相手方も、民事訴訟とは異なりノラリクラリとすることは実質不可能、とにかく先手先手を心掛ける必要があるのです。

以上で、答弁書についての解説を終えたいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございます。まだまだお伝えしたいことが山ほどあります。第55回noteで「その4」を書きましたが私自身の本人訴訟の話も続きがありますし、残業代請求に限らず損害賠償請求の話しもしたいです。他にも、証人尋問と当事者尋問、不当解雇等など、話のネタは尽きません。引き続き、「本人訴訟で未払い残業代を請求する」シリーズをお楽しみください。次回noteへ続く。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。



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