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本人訴訟で未払い残業代を請求する(53)-答弁書を詳解する4【付加金請求に関する認否と反論】

けっこうインターバルが空きましたが、2020年最初のnoteです。第51回noteでは答弁書での「申立ての理由に対する認否」について解説しましたが、ここまでの時点で残っているのが、「付加金の請求」の主張に対する相手方による認否です。付加金については第17回noteを読んでください。

私は、労働審判手続申立書で、付加金請求について次の主張をしました。

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相手方は残業代の支払い義務を履行していないことから労働基準法第37条1項を遵守しておらず、このことは同法第114条の要件を満たしている。

合わせて、相手方は、申立人の相手方における就労期間全体にわたり、申立人の被保険者資格の取得手続きを履行しなかった(甲第*号証)。相手方は健康保険法並びに厚生年金保険法によって社会保険への加入が義務付けられている強制適用事業者であり、申立人は相手方によって使用される従業員であったことから被保険者となるべきであった。相手方は、申立人の雇用事実発生から 5 日以内に「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出しなければならなかったにもかかわらず、当該手続きを履行しなかった。

これら相手方による申立人に対する不当な待遇に鑑みて、付加金請求も認められるべきである。
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付加金請求のポイントは、まず何よりも申立人は未払い残業代を請求しているわけですから、相手方は労働基準法第37条を遵守していないという点。これは、付加金請求を定めた同法第114条の要件を満たしています。この申立人の主張に対して、相手方は、もちろん、ここに至るまでの「残業の実績」や「未払い残業代の請求」に対する認否で既に「否認ないし争う」としているはずです。

さらに、付加金請求では、会社(=相手方)がいかにひどい職場環境であったか、申立人がいかにブラックな労働環境で働いていたかを申立書のなかでアピールすることになります。先述の私の場合は、労基法第37条違反にあたる未払い残業代の存在に加えて、会社は健康保険、厚生年金保険、雇用保険に関しても不適法な行為を行っていた旨を主張しています。当然、相手方は、答弁書のなかで一つ一つ「否認ないし争う」としてくるでしょう。

本来なら、否認ないし争う相手方としては、付加金の請求に関する反論内容を立証する書証(乙第〇号証)を提出する必要があります。相手方が労基法第37条を遵守していたとすること(=申立人の主張に対する反論)に関しては第51回noteにて解説しましたが、この付加金請求に関連して、相手方は健康保険、厚生年金保険、雇用保険について適法な行為を行っていたということを書証を提示して立証する必要があるわけです。

ただ、第17回noteで解説したように、労働審判の段階では付加金を支払えという決定(=労働審判)は出されない仕組みになっているようです。ですので、その点は相手方としても安心していられますから、付加金請求に関してはただ単に「否認ないし争う」と答弁するのみで、書証を提示してまでその立証はして来ないかもしれません。もちろん、相手方が自信と確信を以って反論できるなら、そしてその書証が存在するなら、労働審判委員会の心証にも影響がないとは言い切れませんので、相手方はしっかりと書証を添付してくるはずです。

ここまでお読みいただきありがとうございました。次回、引き続き相手方の答弁書の「第3 相手方の主張」について解説したいと思います。

2020年は「働き方改革」がもっと注目を集める一年になるのではないかと思います。しかし、そうした社会情勢にありながらも、いや、そういう状況であるからこそ、その一方では「未払い残業代」など労働に関する諸問題が先鋭化されてくるのではないでしょうか。このnoteシリーズが、そうした問題を抱える労働者の皆さまに何か有用なヒントを与えることができれば幸いと思います。引き続きよろしくお願い致します。

街中利公

本noteは、『実録 落ちこぼれビジネスマンのしろうと労働裁判 労働審判編: 訴訟は自分でできる』(街中利公 著、Kindle版、2018年10月)にそって執筆するものです。

免責事項: noteの内容は、私の実体験や実体験からの知識や個人的見解を読者の皆さまが本人訴訟を提起する際に役立つように提供させていただくものです。内容には誤りがないように注意を払っていますが、法律の専門家ではない私の実体験にもとづく限り、誤った情報は一切含まれていない、私の知識はすべて正しい、私の見解はすべて適切である、とまでは言い切ることができません。ゆえに、本noteで知り得た情報を使用した方がいかなる損害を被ったとしても、私には一切の責任はなく、その責任は使用者にあるものとさせていただきます。ご了承願います。



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