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【増田俊康さんインタビュー】円東寺住職 安心感のある場所づくり

プロフィール:旧埼玉県大宮市(現:さいたま市)生まれ大宮市育ち。慶応大学理工学部から大正大学仏教学部へ編入しお坊さんの道に進む。奈良県にある真言宗豊山派総本山の長谷寺で修行。真言宗豊山派円東寺住職。千葉県柏地区 保護司。自死・自殺に向き合う僧侶の会 共同代表。流山市観光協会副会長。
大道芸人"PRINCOちゃん"として、近隣の幼稚園や保育園、子ども会や町内会などの各種イベントへ出演もしている。


目次1:出家のきっかけは就活

サラリーマン家系に育った増田さんは、大学時代には周りの友人と同じように就職活動を行い、幼少期から興味のあった映画製作といったクリエイティブな仕事に携われる企業の採用面接を受けていました。

しかし、時を同じくして千葉県流山市で住職をしていた叔父から、お坊さんとして本の執筆を出来ることや自分自身の意思で活動の幅を広げていける働き方の魅力を聞いた増田さんは出家という生き方を選択をしました。

そして、大学の編入や奈良県にある真言宗豊山派総本山の長谷寺での修行や千葉県流山市にある光明院で僧侶として務めた後に今の円東寺での住職となっています。

住職としての暮らし方は、固定の休日がある訳でもなく早朝から深夜近くまで働くため、見方によってはブラック企業に近いかもしれません。大晦日には除夜の鐘を鳴らし続け、片付けで明朝まで体を駆使する肉体的な大変さもあります。
しかしながら、円東寺で落語会を開催したり、子どもが集うラジオ体操やお泊り会の企画を実施するなど、住職として自分の意思で活動内容の判断が出来て、仕事の量やペースを決められる面では、やりがいを持って続けられる職業でもあると増田さんは感じておられます。

柳家かゑる独演会として開催した納涼落語会の様子。
100人以上の参加者が集う円東寺早起きラジオ体操会

目次2:あえて立派な大義名分を掲げない

増田さんは、”自死・自殺に向き合う僧侶の会”や犯罪や非行により裁判所で何らかの処分を受けた人の立ち直りを支える”保護司”として、様々な場での活動もされていますが、「大きな声で自慢できるような立派な想いがある訳ではない」と語ります。

この考えは、活動を長く続けられている秘訣でもあるようです。
例えば、電話で悩みを聞く際には遠隔であることもあり自分が介在できる範囲は限られて思い通りのサポートが出来ず、相談を受ける側として精神的に苦しい事もあったようです。

自分が相手にもたらせる結果にこだわりすぎたり、理想の姿を思い描いてしまうと心が持たない経験をしてきたからこそ、あえて立派な大義名分を持たないことこそが、真摯な取り組み方となっています。

増田さんからは、お坊さんを目指す8割は道半ばで諦めてしまうともお話がありました。柔軟性がある思想を持てなかったり、住職一本で生計を成り立たせるような理想を持ってしまったりする事が要因の一つとしてあるようです。

修行を重ねた真言宗豊山派 長谷寺での様子

出家の道を選択した住職と言えど、資金繰りの苦労や、地域でのトラブルが相互に支え合えるよう向き合う必要があり、地道にやりがいを持って取り組むことが継続に繋がります。

円東寺が面する道路の拡張工事で伐採される可能性があった木を削り、今なお残り続けて存在感を見せる流山立木観音。

目次3:善意が集う場所づくり

光明院で僧侶として勤めていた際、いつも遊びに来ていた高校生たちがおり、大雨の日にそのうちの1人が階段で座っていました。後日、その子が高校を退学した話を耳にしたそうです。
その時に、何か自分に出来ることが無かったか思い返すことがあり、学校への行きしぶりや不登校の子が安心するような場所づくり、更には家庭内暴力や虐待に苦しむ人に向けたシェルターにもなっていきたいと考えています。

現在、円東寺が駆け込み寺となれるよう自由に土足で出入りが出来る本堂を新たに建設中です。
新しい本堂では、無人であってもいつでも出入りが出来る空間を作ろうと計画しており、これは盗まれる物が少なく深夜であっても出入りが出来るキリスト教の教会から着想を受けているようです。

仮に誰とも話さなかったとしても、円東寺という場所が安心できる空間にしていくことを増田さんは目指しています。そして、檀家だけにとっての円東寺ではなく、円東寺では各人が無理の無い範囲で善意を他者に与えられるような場所にしていきたいと語ります。

住職としての増田さん、円東寺を拠点にこれからも様々な取り組みをされていくのが楽しみです。

円東寺のある流山市市野谷(いちのや)の地名はかつて円東寺の門前に市がたったからついた説がある。お寺が地域の方々の交流の場にもしたい想いから「市の谷の市(いちのやのいち)」を平成19年より開始。

編集後記

住職としての一面に加え、手品やマジックを大道芸人"PRINCOちゃん"として活動されているギャップに興味を持ち増田さんにインタビューをさせて頂きました。
手品やマジックは趣味以上仕事未満の感覚で鍛錬されながら、はじめてお寺に行くのがお葬式では残念という想いと掛け合わせて円東寺や近隣で子ども達に披露をしているようでした。

私自身、仏教に対しては葬儀・法事・説教というイメージで、出家では修行の道中に108個の煩悩と共に自分自身の意思・想いを振り払っているような勝手な想像をしていました。しかし、増田さんのお話を伺い、創意工夫が必要な苦労やそのやりがいを知ることができ、住職という暮らし方に対するイメージがかなり覆りました。
増田さん、インタビューありがとうございました!

大道芸人"PRINCO(プリンコ)ちゃん"の愛称で、子ども会や町内会といった各種イベントで活躍。マジック・ジャグリング・バルーンアートの練習を重ねて技を披露する増田さん


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