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『鳩の栖』長野まゆみ

初めてこの人の作品を読んだ時、私は中学生だった。大好きなアリスものだと思い込み、図書室で手に取ったのが『少年アリス』だ。

不思議な話だった。首を捻りながら何度も同じ箇所を読み、あれ? という読後感だったことだけは覚えている。

今回読んだ『鳩の栖』に収録されている短編に出てくるのも、『少年アリス』と同じ、専ら中学生の少年たちだ。今読むと、これは少女に置き換えることのできない、紛れもない「少年たち」の物語だ、と思う。

少年にとっての少女も、おそらく謎だらけの存在であると予想されるが、(かつての)少女である私にとっても、少年とは、あるいは少年たちの住む世界は、まったく不可思議に見えるのだ。

尊敬に裏打ちされた同級生への憧憬、時に病に侵された肉体の脆さにさえ、生命力の青い炎がほのゆらいで見える。

檸檬が匂い立つような、かくも眩しく繊細な少年時代は、作者が選ぶ言葉の美しさによって作られたものなのか、本当にこの世にあるものなのか。残念ながら、今世の私は確かめる術がない。

彼らの少年時代は、「ポーの一族」のように、永遠に続いていくようにも思われるが、彼らはちゃんと受験もするし進学もするのだ。高校の新しい制服姿が眩しくもあり、寂しくもある。「紺一点」の少年・真木の眼鏡も然り。

※紅一点の対義語は、「紺一点」らしい。

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