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K君との日記 #2 〜序章〜


グレートセントラルサンで霊的自殺の巻


私はもう、疲れてしまった。
自分の人生に。
いつまでたってもみじめで悲しい、ただ目の前を通り過ぎていく人生の出来事に。
 
ただ、パートナーと小さなケンカをしただけ。
自分の人生が不安になっただけ。
でも、なんだか今までの疲れがどっと出て、
もうこれ以上は無理だという気持ちになってしまった。
絶望というか、これ以上何も継続していきたくない。

今すぐ消えたい。未来も現在過去もどうでもよかった。
幸せも不幸でもなんでもどうでも良くなってしまった。
いつもこうだ。私の人生は。
何が起こっているかなんて関係ない。
私の中は、生まれてからずっと
常に鬱々とした自己攻撃の嵐で、ひどい状態が続いていた。

もう何もかもいやになって、私は想像の中で、
グレーセントラルサンといわれているものに飛び込んだ。
それは自分が考えつく最善策だった。
というか、もう、そうする意外になかった。
 
子供の頃から何度も死ぬことについて考えた。
そのたびに、まだこんなに小さいのに、
こんなつらいことばかりで(ほんとは楽しいこともあったはずだけど)自分がかわいそう、と思って
そのたびに自己憐憫のような涙があふれて、またそれを糧にして、泣いて泣いて泣き疲れて泣いて寝て、
また起きていつもの生活を送って、何とか思いとどまってきた。
そうやって生きてきた。
(自分にも他者にも慈悲の心を持っている私えらい)
 
でも、もうほとほと疲れてしまった。
 

私は魔法使いの弟子


昔、魔法使いの師匠にこんなことを言われた。
(私は、縁あって17歳の頃から魔法使いの先生の弟子をやっている。
前世でも魔法使いだったのと、今世でも魔法が使えるので、
これはいつかタイミングが来たら書こう)


「悪いことばかりしている存在は、失敗作として宇宙のセントラルサンで創造される前の形に戻されて、作り直されちゃうんだよ」

細かいニュアンスは覚えていないが、こんな感じだったと思う。
なんだかチューインガムみたいな、陶芸家がろくろで失敗した作品をまた粘土に戻すみたいな感じかな?
 
ふと私はその言葉を思い出して考えてみた。
「救いようのない悪い存在は、溶鉱炉のようなところに戻されて、まるで金属のように創造の起源の形に戻されるのならば、
私のように、超真面目に地味に生きてきた人だって、
自分の意志で溶鉱炉に戻ったっていいじゃん!」と。

立派な大岡裁きである。
(私はおばあちゃん子で、いつも一緒に時代劇を見ていたのである)

私はいつも自分のことを出来損ないだと思っていた。
失敗作なら、この私も悪者とおんなじなんだよ。

なんだか親近感が湧いてきた。怖くもなかった。

〜うん、それは別にいーんだけど、グレートセントラルサンてなんぞ?〜
 

私の頭の中では、ターミネーターや、ロードオブザリングの指輪とともに熱い溶鉱炉に溶けていくゴーレムの姿が浮かんだ。(あのビジュアルはそれにしても苦手だ)

私はすべて忘れて消え去りたかった。
この肉体と、ひどい人生しか作り出せない自分自身から
ただただ、逃げてしまいたかった。

なんでもいいから、その、何処にあるのか、何で出来ているのかさえよくわからないものに逃げ込んでしまいたかった。

悲しい過去も、たいして変わり映えしない現在も、
それに続いていく未来も、幸せになれたり夢が叶うかもしれないという期待で、
もうこれ以上、自分のひどい人生を長引かせたくなかった。


飛び込め! Dive , Drive!


イメージの中でグレートセントラルサンにアクセスし、
すぐにそこに身体ごと飛び込んだ!!
(だから魔法使いなんですってば)

溶鉱炉に溶け込んだ私は、もう、なんでもなかった。
何者にもならなくてよかった。
そこは熱くもなんともなかった。

必死で努力して人の顔色を窺って、何が幸せなのかもわからなくて、
効果があるのかないのか、よくなってるのか悪くなっているのか。
常に悪いこと、怖いことが怒ることをどこかで恐れてビクビクしている私。

良いことも悪いことも、私にはコントロールできない範囲で勝手に起こる。

勉強してきたことは本当にたくさんあって、
いろんなスキルや技能を身につけてきたけど、
それが今の自分に直結することはなくて、
いつも我慢や努力ばかり。
私は、いつ幸せになれるんだろう…?
私の人生は、ただ努力と我慢と下積みに終始していた。

楽しいことなんてほんのひと握りもない。
そしていくらやってもどこまで行っても
自分を認められることなんてないから、
満足もできないし全てが徒労に終わる。
三途の河原の石積みかな、と、頭に巡る自分の人生の走馬灯が悲しくなってきた。

でもここは気持ちがいいなーーーーー
私は、もうなんの努力もしなくていい。
何にもならなくていい。

見たことも行ったこともない、
そこは金色の光の海のようなところで、
自分の手で光をすくってかざしてみようとしたけれど、
「あーー、私もう肉体を維持しなくていいんだ」
と、気づいた。

夢も叶わなくていいんだ!!

夢をもたなかったら、目標がなかったら、
達成もしなくていいんだもん。
悟りを開いたり、人類に貢献したり、かわいそうな人を助けなくてもいい。
ご先祖様や家族のことも子孫のことだって考えなくていい。
(そう、私の夢はいつも壮大すぎるのだ…!!)

愛されたり結婚したり、ましてや幸せにだってならなくていいんだ!!
やった!!

この辛い辛い、割に合わない人生も、かわいそうな自分自身も、もう保持しなくていいんだ。

目から鱗で開眼したように、私は心底安心していた。
人生で初めてくらいに、大きな目標やノルマ、
ダメな自分を変えるという努力から解放されていた。

ああ、楽で本当にいいなああーー


神の見えざる手 〜馬子にも衣装〜


幸せに浸っていたその時、不意に赤ちゃんのようになった私のおむつで膨らんだお尻を、
大きな手がヒョイ!とつまみ上げ、玉座の上に立たせたイメージが浮かんだ。

「なんだこれは!?」

私はとうとう頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
(頭がおかしいのは初めからかも?)

自分のことも、自分の容姿も大嫌いな私は、あまり写真を持っていない。
あるのは小学生の頃の写真くらい。
自分で写真を撮るのも、撮られるのも大嫌い。

それでも唯一、なんだか自分がかわいそうになって、いつからか1、2歳くらいのよちよち歩きの時の自分の写真を大切に持っているのだが、
幼い写真の中の私と同じように、赤い服を着ている。
でもその衣装はさらにグレードアップされていた。

大きな玉座に立たされたその子は、立ち上がっていてもなお、背もたれよりもまだ小さな背丈をしていた。

王様のような、いや星の王子さまのようなマントを肩からかけて、
大きすぎる王冠が頭からずり落ちそうに傾いて、手には星がついた杖のようなものを持っていた。

その衣装は全身が赤色で統一され、
マントはスパンコールや宝石、錦糸銀糸、赤いラメの刺繍糸で派手派手しく飾られ、小さなおズボン、赤とエンジ色とピンクの縞々の靴下、ちっちゃな靴には中国の鳥のような柄の刺繍で、ゴテゴテに飾られていた。
その衣装は、小さな女の子の姿とまるで似つかわしくなく、思わず笑ってしまった。

(衣装に着られてるねーー!)
いつかお母さんが言っていた言葉そのまま。
暗い人生を生きてきた私は、いつでもそれを覆すように
過剰に笑いをかきむしって耽溺する癖があった。

その子はまるで戴冠式でするようにそのステッキで、
私の頭と肩をチョンチョンチョン、と触って

『まっこちゃんは、幸せになっていい!』
そう力強く、あっさりと言った。

(この子ってば、戴冠式知ってるなんて学あるな…)

チョンチョンされたことよりも、なんだか冷静にそんなことを思い、そういえば、小さな頃の私のあだ名は「もの知り博士」だったなー、と思い出した。

なんにでも興味を持ち、親や先生たちを質問攻めにし、
すぐさま覚えたことを周りに話してひけらかす、
そんな自分にピッタリなあだ名を保育園の先生がつけてくれたのだ。


全宇宙への宣誓として 〜ひれ伏せ、従え、光の粒たちの振る舞いよ〜


そこで、また私にこんな声が聞こえた。

『ーーー私こそ、この宇宙の中心の中心の中心、
グレートセントラルサンのマスターオブゴッド、
キングオブキング、まっこちゃんである』

『世界よ、全宇宙の存在よ、まっこちゃんにひれ伏せ、崇め奉れ!』
(おそらく、この号令は私の中の全宇宙に鳴り響いていることだろう)

『その存在のありがたさの恩恵に唄い躍り喜べ、
その貴重な存在を知れたことだけでも僥倖である。
この宇宙の中心こそ、このまっこちゃん様チャンさんである。』

『その真実に打ち震え、永遠に思い出しては喜びの涙を流すのだ。
今日からこの世界のルールは私が決める』

『裁量な怖い怖い、意地悪な、人間を苦しめる神は、
みーんなクビでポイだ!!』

魔法少女よりまだ寸足らずのその子は、舌ったらずにそう言い放ちながら、魔法のステッキをシャランラーーー♫と、ブン回していた。

幼児さんなので言葉遣いのおかしさは容赦してあげることにして、それでも精一杯のボキャブラリーを駆使し、何か荘厳ですごそうな雰囲気に畏怖を感じつつ、私は見守るような気持ちで乗っかってみた。

なんだか気分がすごく楽になって、
自分の存在がふわあーっと広がるような感じがして、
ただただ、気持ちがよかった。


そして、女神様になった私


やがて、溶鉱炉の金属の中からなのか、
金色のトロフィーのような女神像がニューっと登場するのが見えた。

それはまるで金の斧、銀の斧の童話のように。
お話では女神様は泉の中から出てくるが、
この場合、金色の溶鉱炉の中から、だから
女神様が金色になってしまったのかしら。

そしてその女神様は私自身なのかしら。
また私は生まれてしまったのかしら…

死のうとしたのに、また生まれてしまった。

(めんどくせえええええーーーー
どぅああああーーーーー、どうしよう)

でも、私にはここから全く別の人生が始まる予感がしていた。

とりあえずもうめんどくさいから寝よう。

涙と鼻水と感動に満たされて、ティッシュのゴミにまみれて、私は眠った。


ーつづくー


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