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原点としての「丸刈り」闘争(5)卒業~さらなる落胆

(2011年1月13日「松ちゃんの教室」ブログ記事再掲)

 小学校ではもっぱら先生の言うことをよく聞く、優等生タイプの「いい子」だった。それが、中学を卒業するころには学校にも教師にも大きく失望し、それが行く行くは大学で教育学部に入り、自ら教員を目指す原動力にもなった。いま思えば、「丸刈り」校則に象徴された学校システムや、オトナ社会との「闘い」は、一教員を経てジャーナリズムに携わることとなる私の歩みの原点でもあった。実家で発掘した中学当時の文章も交えながら、この場を借りて改めて振り返っておきたい。


 最後の抵抗も「空振り」に終わり、 何事もなかったかのように日々が過ぎた。そして、卒業。 記念文集に私はこう書いた。

 結局、生徒の意志では、活動することもそれを知らせることも自由ではなくなっている。各教室に掲げられた「教育目標」は形だけで、いくら金や銀の額ぶちで飾ろうと、“生徒の自主性”は育つわけがない。民主主義を教えるはずの学校が、エリザベスのまねして「絶対先生(王制)」などをやっている。そんな中で生徒が育ったら、自主性のない、誰かに指示されないと行動できない、自分で発言することのできない、無関心、無感動の人間になってしまう。僕がずっと思ってきて、ずっと言いたかったのはそれだ。

 ちなみに兄の文章はこう結んである。

 3年生を長髪で通した私としては「頭髪問題」のおしゃべりをしても良かったが(そもそも学校の指導権限の届く範囲は……)、それは止めた。――おや、どこからか安堵のため息が聞こえる。職員室かな? まぁいいや、あまり気にしないことにしよう。

 おそらくこんな調子で「生意気」を語っていたのだから、担任がキレるのも無理はない……。そんな兄も、今では都内の教会で伝道師(牧師)をしている。

 さて。無事に入試をクリアし、心機一転。新しい高校生活に踏み出そうとしていたころ。耳を疑うようなニュースが飛び込んできた。

次年度から頭髪が自由化されるらしい。

 もちろん、私たち卒業生には何の説明もなかった。どうやら、年度末の入学説明会でそういう「お知らせ」があったようだ。「自由化」の理由については特に知らされていない。まさに青天の霹靂で度肝を抜かれた。これまで要求してきたことが実現し、かわいい後輩たちがその恩恵を受けることは、むしろ喜ばしいことである。「俺たちは坊主だったのに……」などとひがむ気持ちもさらさらない。

 しかし――あれだけ散々、生徒会の要求を拒み続け、「話し合いが不十分」「拙速すぎる」などと理由をつけて先延ばしにし、さも「頭髪規制」には意味があるかのような根拠のない理屈を押し付けておきながら、今さら何なんだ。しかも、ある卒業生は「お前たちの運動の成果だ」などと教師に言われたらしい。

ふざけるな

 長い時間と労力を費やし、どうしたら生徒の共感を得ながら学校側の論理を乗り越えることができるか、中3なりに無い知恵を絞りながら考え、活動してきたのに……。結局、他校が相次いで「自由化」に踏み切るなか、時流に流される形で「改正」したに過ぎない。要はタイミングを見計らっていただけなのだ。学校というシステム、教師やオトナが作りだす建前への失望、落胆は頂点に達した。

「こんなヤツらに教師をやらせておくわけにはいかない」

 それが、大学で教育学部に入り、教員を目指すことになった「原点」である。それからおよそ10年後、念願の教員になることができた。ただ、在職期間が短かったこともあり、当時の経験を生かして児童会に深くかかわり、実りあるものにできなかったことは、心残りの一つである。教員を経験した今、当時の顧問や担任の気持ちが分からないでもない。しかし、せめてあの時、「教師にも立場ってものがあってな…」とか、「自分で考えることは尊い」という教師個人の生の声が少しでも聞けたら、抱いた感情は違っていたかもしれない。その意味では、話の面白い先生、懸命に授業を工夫してくれた先生はいたが、生徒会の活動に関心を持ち、対等の立場で生徒の主張に耳を傾け応援してくれた先生は誰ひとりいなかった。

 おそらくあの顧問も、ただ「若手」だというだけで生徒会に関しては丸投げされていたのだろう。一方、この問題を通じて、他校の生徒会役員や良心的な教師にも出会うことができたのは幸いだった。市民主催の集会にパネラーとして参加するという貴重な機会も与えられた。おそらく、不特定多数の見知らぬ人の前で話をしたのはこれが最初である。

 今日の学校現場で、子どもの自主性は育っているのだろうか。教師や保護者と向き合い、対等に話し合える場はあるのだろうか。生徒会は、教員のこまづかいではなく、自発的に行動できる自治組織として機能しているのだろうか。もはや教員ですら、自主的な発言も教育実践も許されない都立学校の現状では、およそ望むべくもない。


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