このごろちまたで流行る〝神〟(総督)
「マジ神」「神回」「神ゲー」「神アプリ」「神対応」……。これらはいずれも、主にニコニコ動画(ニコ動)などで頻繁に使われているネットスラングである。それぞれの意味はさておき、何かよくわからないがとにかくスゴいものを表現するための形容詞として「神」が濫用されている。
同様に、それらを愛好するオタクたちは「信者」を自称する。ニコ動内で用いられる用語を解説した「ニコニコ大百科」によれば、「信者とは一般的に宗教の信奉者のことを指すが、現代日本では宗教だけでなく特定の個人や団体、製品などに盲目的・狂信的に入れ込んでいる人間も信者と呼ばれることが多い」とされている。
匿名掲示板「2チャンネル」などでは、「信者」がその信仰する対象の良さを他者にアピールし、共感してもらおうとする行為を「布教」、その対象に対してお金を費やすことを「お布施」、信仰対象にまつわる特別な場所(特にアニメではモデルとされたロケ地など)を巡ることを「聖地巡礼」とも呼んでいる。
すでにこれまでも、「アニメ」「ゲーム」「アイドル」などを愛好するオタクの世界と宗教は一定の親和性があると指摘されてきた。『前田敦子はキリストを超えた』(ちくま新書)を著した批評家の濱野智史はインタビューで、別の信仰対象に乗り換える「推し変」というアイドルオタク文化の醍醐味について「宣教師のモチベーションに通じる」と語っている。
「なんでヨーロッパの宣教師たちがこんな辺境の日本まで来たのか疑問だったんです。……もちろん、信者としての使命感とか教会の戦略とか、国家による植民地政策とか、他の事情もあったと思いますが、それにしても個人のモチベーション管理は困難だったはずで。でも、『推し変』が楽しかったと考えればすんなり理解できます」(「ミニストリー」第22号「ハタから見たキリスト教」)
イエスの言動に触れた弟子たちが、もし現代のSNSを駆使できていたら、「マジぱねえ」「神すぎワロタww」などとつぶやき、それが大量に拡散されただろう。初代教会の背景には、おそらくそうした信者たちの伝播力があったに違いない。
ちまたの生半可な似非クリスチャンより、世に言うオタク勢の方がよほど伝道熱心で、忠実な「信仰生活」を送っているのだ。日ごろは徹底して慎ましい生活を送り、限られた稼ぎの中から「お布施」をし、崇敬するキャラクターの誕生日を祝う。
最近では往年の漫画やアニメがリメイクされたり、続編が公開されたり、解散したはずの音楽グループが再結成されることも珍しくないため、かつて心ときめかせた「信者」たちによる、世代を超えた信仰の継承も着々となされている。
我々、「本家」の信者が、その情熱において負けるわけにはいかない。心せよ、キョウカイジャーの諸君。この年も聖霊(force)とともにあらんことを……。
(2016年1月23日付「キリスト新聞」掲載)
【総督】名前不明 キョウカイジャーを統括する司令塔。「神の国」建設に寄与するため、あらゆる予定調和を打ち壊し、業界の常識を覆そうと目論む野心家。地上では仮の姿でキリスト教メディアに携わる。サブカル好きの中二病。炎上体質。武器:督促メール/必殺技:連投ツイート/弱点:カマドウマ(便所コオロギ)。
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