見出し画像

小説|赤いバトン[改訂版]|第13話 夏休み(語り:クミコ)

夏休み、わたしは女子体操部の副顧問こもんだったため、部活の練習日には、顧問こもんの先生とともに指導に当たっていた。
一方、コウサク先生が指導している美術部は、土日以外は美術室を開放し、作品制作のためにいつ利用しても構わない。自宅で作品制作しても構わない。夏休み中に最低一作品を仕上げるという課題を出していた。なので、月~金の朝から夕方、コウサク先生は美術室にいた。
女子体操部の練習は、月~金の午後一時から五時だったので、午前中わたしは二人分の弁当をこさえて、午前十一時半頃、美術室に行って、コウサク先生といっしょに、わたしの手作り弁当を食べていた。
夏休みに入ってすぐの頃は、土日にデートしようと、わたしは勝手に目論もくろんでいたが、少し当てが外れた。コウサク先生は「自分の油絵に没頭ぼっとうしたい」との希望があって、土日のどちらかは美術室にこもって、作品に向かっていた。
ヒマになる日はどうしようか? わたしも読書に没頭ぼっとうしようか? 大学時代の友人と遊びに出かけようか? ……などと考えていたが、そんな計画の必要はすぐになくなった。
2‐Dの女子グループの何組かが、ウチに遊びに来た。
コウサク先生の話でいっしょに盛り上がったり、中二女子ならではの、甘酸あまずっぱくて、じれったい恋の話をいっしょに悩んだり、告白すべきか待つべきかの相談をされた時は、「心を読まれるな!」とアドバイスしたりして、充実した休日を過ごしていた。
生徒たちは帰る際、ウチの母に必ず、
「ごちそうさまでした!」「お邪魔しました!」と挨拶あいさつをしてくれた。
母も「いい子たちばかりで、クミコ良かったね」と。
わたしは自慢の2‐Dに(エッヘン! どうだ! 参ったか!)だった。
たまに男子グループも顔を出して、ひとしきり騒いで、
同様に「お邪魔しました!」と帰っていた。
コウサク先生との会話にも、2‐Dの自慢話が増えていた。
そんな矢先のことだった。
事件が起こった。
たまにウチに来ていた男子グループの一人が、万引き事件を起こした。

夏休みも残りあとわずかになった土曜の正午前、
チリリリリ!  チリリリリ!  チリリリリ!
わたしは急いで居間の電話機に向かった。
どうせまた「今日も先生んとこ、行っていい?」だろうと思って受話器を取ると、
2‐Dの生徒ではなく、警察官だった。
万引き被害を受けた書店から掛けているそうで、
「今から来ていただけませんか?」と言われた。
身体がこわばった。恐怖で声も少し震えた。
「ほんとにウチの生徒、ですか? だ、誰ですか?」
「名前、言わないんですよ。あなた、クミコ先生ですよね?」
(なんか気にさわる口調だな、この警察官)
そう思ったら恐怖は消え、闘争心みたいなものがいてきた。
「はい、わたしです」
「教えてくれたのは、中二。そしてお宅の電話番号だけです」
「分かりました。すぐにうかがいます」
警察官は書店の場所を教えてくれた。知っている書店だった。
慣れた様子で「待っていますからね」と電話が切れた。
母がそばに来ていた。
「お母さん。2‐Dの生徒が万引きした」
「コウサクさんに電話!」と母。
「コウサク先生、いま美術室。学校に電話したら学校にバレる」
「わたし、迎えに行かんとかん。つーか、戦ってくるわ」

わたしのポリシーは、
[生徒たちのための謝罪なら、いつでも、どこでも、どんとこい]

Tシャツ&短パンはさすがにマズいと思い、下だけジャージを穿いて、愛用の健康サンダルいて、通勤にも使用している原付げんつきスクーターで書店に向かった。
髪をなびかせ、あれこれシミュレーションしながら、書店に急いだ。
ちなみに当時はまだ、原付げんつきノーヘルOKだった。
だから髪をなびかせながら書店に急いだ。

~ 第14話 土下座(語り:クミコ)に、つづく ~


~ 全20話、一気に読みたい方は、AmazonにてKindle版 販売中 ~
Kindle Unlimited会員の方は、無料(いつでも読み放題)です
--------------------------------
この作品にとって、5月は特別な月のため、
明日まで無料配布キャンペーン/550円 → 0円】実施中!
~ この機会に、ぜひどうぞ ~
日時:5月26日(金)17:00 ~ 5月29日(月)16:59
--------------------------------
★ kindle無料アプリ(iOS/Android/MacやPC版)ダウンロード ★
~ 以下のリンクは、Amazonのウェブサイト ~
https://www.amazon.co.jp/kindle-dbs/fd/kcp


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?