バーで出会った男が、とある国の王子だった

自分にしては、珍しくメルヘンチックな投稿になるがお許し頂きたい。

タイトルの通りだが、残念ながらこれはおれの話ではない。
先日オーストラリア南部の島、タスマニアの友人を訪れたときの話だ。

オーストラリアの友人トム(仮名)は、外交官をしている。彼は3~4年のスパンで世界各地に派遣されており、おれは彼が南米に赴任している際に出会った。

タスマニアはオーストラリアでは最南部に位置する。夏なのに冷涼とした気候や、1週間ほどのドライブで島全体を一周できるサイズ感、一面に広がる草原といった風景などが北海道に似ている。

現在は故郷のタスマニアに家を構えたようで、彼の家に招待してもらった。
オーストラリアらしく、庭に設置した巨大なオーブンでピザのような巨大な肉を豪快に焼きまくるバーベキュー。

すでに12月中旬から休暇を取っているが、唯一12月某日だけは仕事が入っていると話した。

「デンマークの皇太子妃が来週タスマニアに来る予定なのだが、彼女はオーストラリア人なんだ。私の方が3つ年上だが、同じ小学校に通っていた。当時は話したこともなかったがな。ところで、彼女がどうやってデンマークの皇太子に会ったか知ってるか?」

メアリー・ドナルドソンは、タスマニアのホバートで幼少期から大学までを過ごした。その後、いくつかの広告代理店でグローバルにキャリアを重ねる。
2000年9月、彼女はシドニーのとあるバーを訪れた。そこで出会った男性が、デンマーク皇太子のフレデリックだった。

「想像してみろよ。自分が一国の王子だったら。バーで知り合った女の子に、何してる人なの?って聞かれて、『まぁ、王子かな』って答えてみたくないか?」

たしかに。社交の際に自分の職業や地位をぶら下げるほど野暮なことはないが、自分は一国の王子だと答えたときの相手の反応は見てみたいもんだ。

日本という東アジアの小国で繰り広げられる「合コン」という名の男女の値踏み合戦において、大手広告代理店やら商社やらをアピールする男たちを横に、「王子」というジョーカーカードを持って参加してみたら。

(王室の血を引く人間には、王太子、王子、皇太子などの呼称があり、君主によって変わるようだ。王政について真面目に説明する記事ではないので、ここではシンプルに「王子」としている)

おれたちはそんな話をつまみに、巨大な肉に食らいついた。

タイトルは女性目線だったが、ついつい男目線の話になってしまった。
しかし、女性からしても、バーで出会った男性がまさか本当に一国の王子だとしたら、それこそ自分が寓話の主人公になったような気分であろう。

いざ自分がその立場になったら、自由が利かずに面倒くさくなってしまうだろうが、数日だったら試してみたいもんだ。

ちなみに、外交官のトムの父親は、82歳で新しい彼女ができたという。お相手は、同じく82歳のお洒落でアクティブな女性だそうだ。トムの父親は過去に三度の結婚をしているが、元妻はみな病気で他界してしまったという。彼は他界した三人の元妻を平等に扱うため、彼女らの写真を額に入れ、歴代の校長のように並べて飾っているという。トムや友人は、父親の新しい彼女に、「彼と付き合うと死んじゃいますよ」と冗談で話すが、彼女は「どっちにしろもうすぐ死ぬからいいのよ」と返すという。

不謹慎ではあるが、個人的にはこちらの話が、タスマニアに行ってよかったと思える一番の土産である。


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