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新聞勧誘員氏の深い一言(2001年?32歳?)

当時、新居に越してから1年間ほど、猛烈な「新聞勧誘ラッシュ」が巻き起こった。
入れ替わり立ち替わりやって来られる、勧誘員さん。都度お断りする私。
断る理由は二つ。夫婦して家でのんびり新聞を読んでいる時間が皆無であったことと、どうしても読む必要がある時は、旦那は会社で、私はバイト先で存分に読めたからだ。

そんな二大理由を盾に、私は来る日も来る日も断り続けた。
まだ周囲の環境にも慣れておらず、いつ誰が訪れて来るのか分からなかったが(あの頃は何故か色んな人が訪れて来ていた)、居留守を使いながら、千本ノックを受ける高校球児のように、様々なタイプの勧誘員さんとの応対をこなしていった。

結果、「やんわりかつ端的に断る技術&ハート力」は向上。かなりの応対免疫がついた。
と同時に、勧誘回数も徐々に減少し、プライベートタイムにおけるちょっとした緊張感からも解き放たれていったのだった。

そんなある日。久しぶりに新聞勧誘員さんが訪ねて来られた。
私は相当油断していた。
だがしかし、そこは昔取った杵柄。すかさず応対モードに切り替え、常套句「せっかくなのですが、読んでいる時間がないので……」をもってお断りをした。
……そう、大体の方はそこで「そうですか、またよろしくお願いします」とお帰りになられるか、「おまけをつけますから!」と粘られる。
さてさて、今回は一体どっちだ!? 余裕の構えで返答を待つ。

ところが。
インターフォン越しに返って来たのは、そのどちらでもないお言葉。
「奥さん………時間は作るものですよ……」
「……………」
想定外の“斜め上発言”に面食らった私は、瞬間グッと息を呑み、内心唸った。
なんと哲学的な切り返しであろう!お見事である。

とは言え、それでも新聞をとる訳にはいかない。
時間が出来たら出来たで、別なことをしたいのだ。
なので、私は謹んでお断りをさせていただいたのだった。


その後、意外にも私の中で勧誘員さんのお言葉は生き続けた。
聞いた瞬間は「まあ、そうだよね」としか思わなかったのに、今でも慌ただしくてしっちゃかめっちゃかな時などにハッと思い出しては、時間の使い方を省みるのだ。

そこまで頻繁にスッと記憶書庫から引っ張り出せるのは、あの時の言葉に勧誘員さんの言霊パワーがしっかりと宿っていたからであろう。
だからこそ、無意識に心に刺さったのだ。

とは言え、今現在も相変わらず新聞を読む時間は無かったりするが(その時間が出来たら、眼を休めていたりなんかする)、人生に含蓄ある金言を残して下さった勧誘員さんには本当に感謝なのである。