見出し画像

<MaaS解体新書>オンデマンド交通 後編(事業開発編)

こんにちは。MaaSHack編集部の中村です。
今回お届けしますのは、前回投稿させていただきました「MaaS解体新書」の第2弾・事業開発編です!
前回はオンデマンド交通の概要について解説して参りましたが、
今回はより実践的な内容となっております。
まさに、MaaSの事業開発を本気で考えるビジネスマンのためのコンテンツです。

ちなみに、前回記事はこちらです!
お見逃しの方はこちらも併せてご覧ください。


また、今回の記事はかなりボリュームがあります。
資料化したものもDL出来るようになっておりますので、一緒にご覧いただくと理解しやすいかと思います。

1.オンデマンド交通のビジネスモデルイメ―ジ

さて、KSFやマネタイズポイントについてご解説する前に
ビジネスモデルのイメージについて簡単にご共有させていただきます。
以下はあくまでビジネスモデルの一つの案です。今回は地域課題解決型のサービスを想定しています。
今回の場合は事業主体と運行主体を分離しており、利用者とのやり取りは事業主体が行います。
そして、事業主体がシステムを活用して組んだオペレーションに従って、
運行主体が利用者に実際に移動ソリューションの提供をします。
場合によっては、利用者からの利用料金以外にエリアスポンサーからの協賛金を収益源とすることもあります。

画像1


2.オンデマンド交通のKFS

さて、早速オンデマンド交通のKSFについてお話したいと思います。
前回、様々なタイプのオンデマンド交通が存在するというお話をしたかと思いますが、
基本的には全て共通して以下の4つのポイントがあります。
1.地域内のODデータの収集
2.運行ルートの最適化
3.既存の公共交通事業者との合意形成
4.UI/UXの最適化

それぞれについて、詳しく解説していきます。


**地域内のODデータの収集
まず、ODデータとは何かご説明させていただきます。ODデータとは鉄道やバスなど公共交通機関の乗降人員データの一種のことを指します。
オンデマンド交通の事業開発では、移動の最適化を図ることが極めて重要です。
したがって、重要な問いは「どの時間・どのルートで・どのような車輛を何台稼働させるか?」です。
この問いに対する解を正確に出すにあたって、情報収集が必要になります。
そのために実施するのがODデータの収集というわけです。
これらのデータをもとに顧客の移動ニーズの傾向を把握し、それに合わせてサービスをアジャストしていくことで、最も収益性の高いサービス運営を図ることができます。
ではどのようなデータを集めるべきか?というのは個別のモビリティソリューションによって異なりますが、参考までに以下のような情報は必ず収集する必要があります。

画像7


このように必要な情報を収集して、市場ニーズをきめ細やかに捉えることで、サービスの収益性を上げていくことが第1のポイントとなります。


**運行ルートの最適化
前項と重複しますが、収集したデータをもとに運行ルートを最適化する必要があります。
この際、移動ニーズの間隙を縫うことが重要である一方、オンデマンド交通のみで
全てのエリアをカバーすることは移動効率性の観点から現実的ではないことが多いです。
そのため、既存公共交通を運行しているプレイヤーを正確に把握し、
連携を前提として運行ルートを策定する必要があります。
この際、ハブ&スポークスのイメージで、どの点をハブとしてどの点をスポークスとするかを考慮すると、既存公共交通との連携を前提としたあるべき運行ルートの全体像がより検討しやすくなります。
下図はまさにそのようなイメージです。

画像3

**既存の公共交通事業者との合意形成
運行ルートのあるべき姿の構築ができたとしても、実現できなければ絵に描いた餅です。
ここがまさに実践的なポイントなのですが、オンデマンド交通サービスの展開にあたって、
"地域からの承認"は強調してもしすぎることがないくらい、極めて重要なポイントです。
ここでいう地域とはユーザーである住民と地場の公共交通の運行事業者です。
前者の要望に応えられないサービスは受け入れられず、後者に無断で参入した場合は
地域公共交通会議などで反発を受け、サービスの運営が難しい状況に陥ってしまうケースも存在します。

あくまで、地域住民の生活をより向上させるという目的のために、
地元の公共交通事業者も含めたスキームの中で、三方良しの体制を構築していく必要があります。
また、三方良しの実現にあたって、キーとなるのは住民の声です。
住民の声をしっかりと集め、地方自治体などの公共団体に提案し、それを足掛かりに
地場の公共事業者と連携をしていき、ソフトランディングを図っていくのが極めて重要なポイントです。
極端な話、”勝手に入ってきて勝手にサービスを始めた、産業の簒奪者"という印象を植え付けないように
細心の注意を払っていく必要があります。


**UI/UXの最適化
最後のポイントはUI/UXです。
やはり、ユーザーに利用していただくためには、ターゲットユーザーに最適化されたUI/UXを構築していく必要があります。
また、これは一般的にも言えることですが、これが正解!というものはなく、日々改善を続けていくことが重要な領域でもあります。
殊、高齢者ユーザーについては、利用ハードルの高さが直接影響しやすい層であることは間違いありません。
デジタルにあまり慣れていない方々こそ、移動弱者にもなりやすいため、
ご高齢者の方・デジタル弱者の方が利用しやすいUI/UXを日々研究していく必要があります。
ご高齢者向けのサービス利用ハードル解除については、以下の記事もぜひご参照ください!


**KSFまとめ
ここまで、オンデマンド交通サービス開発にあたってのKSFを4つ解説してきました。
これは、大きく分けると2つの問い構成されると思います。
具体的には、「1.より運用コストを低くするためにどのような運行サービスがニーズに対して最適か?」
「2.最適な運行を実現するにあたって、どのような点が特に躓きやすく、気を付けなければならないか?」
個別のサービスや市場環境・地理的条件などによって、ポイントは異なりますが、
基本的にはこの2つの問いがポイントになるのは間違いありません。
この問いから検討を進めつつ、KSFを参考にしていただければ幸いです。

3.オンデマンド交通のマネタイズポイント

次に、オンデマンド交通のマネタイズポイントについて解説していきます。
マネタイズポイントについては、今後発展していく必要もあるため、
基本的な収益構造の考え方を示したうえで、今後更に収益性を上げていくための可能性について触れていきます。


**収益の考え方
まずは、一般的な収益についての考え方のご紹介です。
下図をご覧ください。

画像4

基本的には、上図の通り、
事業収支=(運賃収入-運営コスト)+その他のサービス収益+α既存ビジネスのシナジー効果
となります。
基本的にはポイント①部分の収益が基本となりますが、これだけでは正直事業運営が厳しいケースも多いかと思います。
したがって、さらなる収益向上を図る必要があり、そのための手がかりとして②の「その他のサービス収益」および③の「既存ビジネスのシナジー効果」に注目する必要があります。

それでは、具体的にはどのようなものがありうるのでしょうか。
例えば、広告によるスポンサーフィーや、貨客混載による物流収益、生活サービス連携などがありうるかと思います。
具体的には以下のようなイメージです。

画像5

画像6

画像7


4.オンデマンド交通の事業開発ステップ

ここまで事業開発におけるKSFやマネタイズポイントの可能性について触れてきましたが、最後に事業開発におけるステップを少しだけ公開いたします!
まずは対象エリアの検討を行います。ODデータはもちろん、ステークホルダーである行政や既存の交通事業者に対してもヒアリングを実施し、移動実態や移動課題を分析していきます。
その後、候補地の実地調査を経たうえで、運行対象エリアのあたりをつけます。
対象エリア選定および移動課題などの把握が完了したら、次にサービス設計を行います。
検討事項は多岐にわたりますが、ユーザーの課題を解決しながらどのように収益化するのか?
が最大の論点となるケースが多いです。
この際、ビジネスモデルが決定した際には、実現にあたって法制のリスクがないかなどの確認も重要です。
サービス設計が固まった後は、実証実験に移ります。
実証実験の目的を明確にしたうえで、何を検討するのか・検証結果をどう活かすのかを設計します。
設計に基づき、実証実験を行ったら、サービスローンチに向けての課題を整理して解決策を検討していきます。
最終的に課題を解消していき、サービスの実装に至ります。

画像8


5.おわりに

オンデマンド交通サービス開発の実践的な情報を詰め込んでみましたが、いかがでしたでしょうか。
オンデマンド交通は地域・事業課題を解決して、より良い暮らしを実現することができる素晴らしいサービスです。
一方で、皆様もご認識の通り、マネタイズなどの点で更なる発展の必要性はあるかと思います。
MaaS Hackは「MaaSの事業化/マネタイズを本気で目指しているビジネスリーダーのための情報メディア」です。我々としてもこの重要な問いに向き合いつつ、皆様と共創して解を見つけていけたらと思っております。
大変長文にも関わらず、最後までご覧いただきありがとうございました。
また、上記内容を簡単にまとめた資料も作成しておりますので、ぜひDLください。

――――――――――――――――――――――――――
<作成者プロフィール>
株式会社リブ・コンサルティング
コンサルタント
中村 仁哉

東京大学法学部卒業後、リブ・コンサルティングに入社
モビリティ業界を主として事業開発・マーケティング系コンサルティングに従事
《主なコンサルティング実績》
MaaS事業開発支援
ヘルスケア新規事業開発・企業支援
SaaS系ベンチャー 事業開発支援
マイクロモビリティメーカー マーケティング戦略策定・実行支援
カーディーラー デジタルマーケティング戦略策定・実行支援






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?