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今夜は薔薇を買って

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今夜は薔薇を買って

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頬杖をつきながら窓ガラスにたらたらとぶつかっては落ちていく雨を眺めている。上から下に流れてまた上から下に流れていく雨。熱い珈琲がいつの間にか冷たくなっている事に気がつかずただ窓をつたう雨を眺めていた。「もう五日目か」誰も居ない部屋で独り呟く。

雨。雨はいつも何かを気づかせてくれる。自分が大事にしてたもの、自分を大事にしてくれたもの。自分に足りていたもの、自分に足りなかったもの。自分が欲し

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12階のレストラン街に出店している老舗のカフェでお茶をすることになった。俺の隣に高梨、テーブル挟んだ目の前に瞳さん。「高梨君は雅史君と同じクラスなの?」落ち着いた店内に流れるクラッシック音楽に瞳の声は丁度良く溶け込んでいる。「中学のころ隣の席だったんです。中一で話も合ってその流れで部活も一緒に入ろうって事になって今に至るって感じです。」「あら、それじゃあもう五年くらい仲良しなの?」「はい、

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部活をサボった男子高校生二人は目的地の駅に着き電車から降りた。「そこそこ学校で単位修得さえしていれば適当に過ごせるよな」と一緒にホームを歩いていた高梨に向かって雅史は言った。「但し頭悪かったら色々大変じゃね?」「だよねー」ぶっははとふざけながら銀座メトロの改札にタッチして二人同時に出た。「母親がさ」雅史は伸びてきた前髪を息でふーっとあげて息を吸った。「女の子と付き合ってるの?って聞いてくる

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もう三日も経っているのに今さっき起こったような感覚で居る。瞳とのキス、自分の唇に付いた同じ色の口紅を瞳の親指で拭われた感触。整った爪、光沢のあるマニュキュア。雨音が二人だけの世界を密にしこのまま車を走らせてどこか遠くへ、そうなっても後悔しないと感じたあの時。無言のまま見詰め合い、先に瞳が視線を外し後部座席の紗江子に「野村さん、駅に着きましたよ。起きれますか?」と落ち着いた声で呼びかけた。「

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駅までの帰り道、紗江子のヒールの高さを気の毒がって「車でお送りします」と瞳が申し出た。お式の日取りを決める前にまずは親御さんに御報告したほうが良いだの会社を続けるのかだのそういった「普通ならそれが先」を紗江子は全く考えていなかった点を瞳に整理して段取りを組んで貰えた事に非常に気を良くしてワインを呑み過ぎふらふらになった。「タクシー呼びますから」と坂下が遠慮するも「良いから瞳に送ってもらえ。

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なんやこの展開。紗江子はスカートの腿のあたりをぎゅっと掴んだ。折角の結婚式の打ち合わせ、折角のスーツ、折角の私の、私の未来の夫は私を無視しているし、本日の主役はこの私やろ?なのになんやねんけったくそ悪いわ。なにを言い争ってんねん。あほちゃうか。そんなんどうでもええ話しにきたんやないで。わざわざオーダーメイドで作らせたスーツと海外から取り寄せた靴が無駄になるわい。目の前の男女三角形状態から爪

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「いやうちはいつもこうだから、気にしないでよ」と直樹は坂下に言い訳し始めた。「うちはね、なんていうか信頼関係が出来ているから。瞳は専業主婦だし夫を立てるの分かってる奥さんだからね。結婚してもう七年だしなあ瞳。」ボトルをワインクーラーから取り出し、顔を向けず「そうね」と短い返事が離れた所から返ってきた。「それって信頼関係じゃないと思いますけど。ただの主従関係にしか見えませんし、私が将来家庭を

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綺麗な窪みを作っている鎖骨になだらかにネックレスの鎖が瞳の皮膚に張り付いている。薄く控えめなチェーンの中央に輝くプラチナの小さい輪。その内側のやや下に小粒のダイヤモンドが瞳と上手く調和されて美しさを引き立てて居る。先日紗江子の為に買ったこのネックレスだが、直樹は瞳に「これ良かったら使って」と帰宅するなり玄関先で靴を脱ぎながらぶっきら棒に瞳にプレゼントした物だった。そのネックレスを「奥様今そ

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ふぅうん。なかなかええうちやないの。こりゃ旦那の稼ぎだけやおまへんな。おおかた・・・せやな嫁サイドが持ってんのとちゃいますかいの。結婚したのが33歳、そこから35年ローン組んだとして月10万超えのボーナス倍額からの頭金ときて・・・・いやいやいや無理目でっしゃろなんぼなんでも土地込みでリーマンが買える匂いがあらしまへんわ~ないわ~。てかたっかい生命保険でも入ってるんですかいのぉぉぉっほほほほ

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「憂鬱だ。」口に出してしまった瞬間はっと我に返った。紗江子との待ち合わせ場所に選んだ駅の改札は人がまばらだったが、2人程坂下のほうをちらりと見てまた視線の行き先を元に移した。紗江子が仕組んだ罠に自分がまんまと引っかかったとしか思えなかった。四年前会社の忘年会で記憶を失くすまで呑んでしまい目覚めたら紗江子のアパートだった。当時の坂下は恋人に二股をかけられ別れたばかりの辛い時期だった。仕事で愛し

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8

先週今井家の食事会に使ったテーブルクロスを広げ、花瓶に赤と白の薔薇を半分づつ活け今夜招かれたお客の為に作られたローストビーフを冷蔵庫から取り出す。瞳は綺麗に切り分けながらソファに座って居る直樹に向かって「駅にお迎え行かなくてもいいんですの?」と声を掛ける。朝から胃が痛み機嫌の悪い直樹は「住所教えたんだし今時GPS機能付いてない携帯持ってないヤツなんか居ないんだし来れるだろ」と邪険に言った。先

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食事の後を期待して頼んだ高いシャンパンがテーブルに運ばれてきたが今すぐキャンセルしたくなった。直樹は紗江子の相談を聞きながらそう思った。フランス料理のフルコース、紗江子の為に買ったネックレス(会議終了後会社を抜け出して買いに行った)、そう遠くない場所にあるシティホテルの予約、これらを全て今すぐキャンセルしたいのだ。何故なら紗江子の相談とは坂下との四年越しのお付き合いからの結婚に向けての媒酌人

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和子は今井家の長女であり直樹の三つ上の姉である。25歳で結婚し26歳で長男雅史、29歳で次男克行を産み育てながら食品メーカーの社員として勤続23年のキャリアを自負している。「我ながら今までよく頑張った」これが和子の心の中での口癖である。夫の守雄は飲食店勤務で店のマネージャーをしている。夫の薄給だけでは男の子二人これからお金が掛かる時、この私がしっかり稼いでいなかったらどうなっていたことやら。

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会社に戻ると会議が始まりますよと野村紗江子が直樹に笑顔で駆け寄ってきた。153センチの小柄な紗江子はくるくると上目遣いで直樹を見上げ「お昼は何食べたんですか?もしかしてパスタですか?」と汚れた袖口を掴んで悪戯っ子のような含み笑いをした。ああ紗江子が本当に愛人だったら私の人生薔薇色で完璧なのに。可愛い黒目がちな大きな目、前髪をそろえたストレートの長い髪、Dカップはあるだろうと思われる胸、そして

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