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ドラマシナリオ「未来へのログライン」(♯2) 全4回予定

◯撮影スタジオ・スタジオ内
   撮影風景。
   美咲、護の横にいてモニターを覗き込みながら
   絵コンテ片手に、護と話し込んでいる。
護「どう思う? このアングル」
美咲「いいと思います! すごい綺麗」
護「よし、これでいこう」
   離れた位置に河村も立っていて、美咲の様子を見守っている。
    ×      ×      ×
   撮影が進んでいる。
   様子を見ている美咲に話しかける河村。
河村「すっかり風原組の一員だな」
美咲「すみません、完全に仕事の範囲、超えちゃってるようで」
河村「クライアントの要望なんだから仕方ない。
 唐田さんも許可してくれてるから別にいいよ。
 下手によくわからないところに勝手に営業かけられても、
 俺も困るしな」
美咲「それ、私が要らないってことですか?」
河村「どうかな」
美咲「ひっど」
河村「どんな形でも、クライアントが喜んでくれるなら
 それがウチの会社としては一番だ。
 でもな、本業もしっかりやれよ。期待してるぞ」
美咲「はい」
    ×      ×      ×
   美咲のジャケットのポケットに入っていた携帯電話が
   バイブレーションする。
   徐に取り出す美咲。
   電話の画面には凌の名前と電話番号が表示されている。
美咲「ちょっと、すみません」
   と言って、その場から離れる。
 
◯撮影スタジオ・スタジオの外
   扉の外で、電話に出る美咲。
美咲「もしもし」
凌の声「ああ、仕事中?」
美咲「そうだけど、別に大丈夫だよ」
凌の声「あの、誕生日だけどさ、箱根で良い?」
美咲「箱根?」
凌の声「行く場所。実は父さんの知り合いが
 経営している旅館があって、特別に良い部屋
 押さえてくれるって言ってたんだよ。
 人気の部屋らしいから、早めに伝えたくて」
美咲「(テンションが上がり)え、本当に?」
凌の声「温泉、ずっと行ってなかったでしょ。久々にどうだ?」
美咲「行きたい! すごく」
凌の声「決まりだな。ゆっくり疲れ取りに行こう」
美咲「うん、わかった!」
 
◯撮影スタジオ・スタジオ内
   粛々と撮影が進むスタジオ内に、
   笑顔を浮かべながら戻ってくる美咲。
   護が近づいてきて、
護「あ、ちょうどいいところに戻ってきた。
 ちょっと、ケーブル片付けるの手伝ってくれる?」
美咲「あ、はい」
護「ごめんね、こんな助監督に
 やらせるようなことまでさせちゃって。
 何せ猫の手も借りたいぐらいの現場だから」
美咲「いえ! ケーブル巻くの得意だったんで、
 任せてください」
護「終わったら、またカットの相談に
 乗ってもらってもいいかな?」
美咲「はい、もちろんです!」
   美咲に背を向ける護。
美咲「あの、私からも頼みたいことがあるんですけど……」
   護、振り返って美咲を見やる。
美咲「最近また脚本を書き始めたんです。
 書き上がったら見てもらってもいいですか?」
護「へえ、どんな内容なの?」
美咲「学生時代に撮った映画を再構成したやつなんで、
 女子高生が主人公で、あるとき、
 映画館でフランス映画を見て……」
護「『ログライン』って言葉、知ってる?」
美咲「ログライン? ……すみません、不勉強でした」
護「映画のあらすじを説明するときは、端的にどんな話なのか、
 二、三行で語れないといけない。
 誰がどうなるお話って感じでね。
 ここが言えないとその脚本家は何が書きたいかわからない
 ということになり、話も崩壊する」
美咲「……」
護「まずログラインをしっかり立ててみよう」
美咲「書き上がるまでに時間かかっちゃうかも……」
護「脚本は映画の土台なんだから、時間をかけた方がいい。
 書き終えたら持っておいで」
美咲「見てくれるんですか!? やった」
護「書き方の参考になる本、あとで紹介してあげよう」
美咲「ありがとうございます!」
 
◯温泉街・全景
   伝統的な造りの旅館が建ち並ぶ温泉街。
 
◯旅館・全景
   豪奢な温泉旅館の門構え。
 
◯同・入り口
   道を曲がり、旅館の門前に辿り着く、
   スーツケースを引いた美咲と凌。
美咲「うわぁ、すごい」
凌「小学生以来だな〜」
美咲「いいの? 本当にこんなところに泊めさせてもらって」
凌「泊まってもらわないと困るんだよ。
 父さんのたっての希望でもあるんだから」
美咲「じゃあ、温泉、楽しませてもらおうっと」
 
◯同・女性浴場(夜)
   露天風呂に首まで浸かりながら、考え事をしている様子の美咲。
美咲「ログラインかぁ……」
    ×      ×      ×
    (フラッシュ)
   学生服を着ている美咲が映画館の前を通りがかる。
   看板には、映画『アメリ』のポスターが貼られている。
   微笑むオドレイ・トゥトゥの顔に目を奪われる美咲。
    ×      ×      ×
   (フラッシュ)
   大学のキャンパスの廊下を歩く美咲。
   「広島文化大学 映画研究会」という貼り紙が
   貼られている扉の前で立ち止まる。
    ×      ×      ×
   (フラッシュ)
純菜「尾道映像祭、最終候補って……すごいじゃん美咲!」
卓也「ウチからコンペでいいところまでいったなんて
 何年振りだろ」
美咲「私、映画監督になれるかな」
純菜「なれるよ、絶対! だって、初監督作品で最終候補だよ?
 そんな人、他にそうそういないよ?」
    ×      ×      ×
   手紙を読んでいる美咲。
   そこには、
   『誠に残念ながら、今回の入選については見送らせて
   いただきました。貴殿の今後益々のご活躍をお祈り申し上げます』
   と書いてある。
美咲「……(顔面蒼白)」
    ×      ×      ×
美咲「……」
   考え込んでしまう美咲。
 
◯同・客室
   タオルで頭を拭きながら浮かない表情で
   入ってくる浴衣姿の美咲。
   広めの高級和室。
   すでに、同様に浴衣姿の凌が卓に付いている。
凌「どうかした?」
美咲「……え?」
凌「なんか浮かない顔してるからさ」
美咲「そんなことないよっ! 
 ちょっと考え事してただけ」
凌「考え事?」
美咲「大したことじゃなくて、仕事関係のこと」
凌「なんか嫌なことあったのか? 
 そしたら大したことじゃん」
美咲「全然。いま、脚本書いていて、その内容について考えてたの」
凌「仕事で脚本? そんな仕事だったっけ?」
美咲「ほら、凌にも話したでしょ? 
 最近関わった会社の映像プロジェクトで、
 短編ドラマを撮ってるの。それでうちの会社に
 登録してる監督に気に入られちゃって。
 撮影現場に呼ばれてるんだ」
凌「へぇ〜」
美咲「すごく良くしてくれるんだよ? 私の出したカット割の案を
 採用してくれたり、助監督もやらせてもらえてるの。
 今度、私の書いた脚本も見てくれるって言ってて」
凌「(冗談混じりの訝しげな顔で)それって本当に見たいだけか?」
美咲「全然、全然、向こうはそんなつもりじゃないよ。
 歳だって35歳で離れてるし」
凌「ならいいけど」
美咲「でも……書き上がったら、凌にも読んでほしいな」
凌「いや〜……俺はよくわかんないからいいや。
 読む時間も取れないかもしれないし」
美咲「そうだよね。変なこと頼んでごめん」
凌「いや、いいよ。とりあえずそろそろメシくるから、
 そんなこと考えずに、今は食べることに集中しようや。
 小田原で獲れた鯛を使った懐石料理だって!」
美咲「……」
    ×      ×      ×
   テーブルには料理の空き皿が並んでいる。
凌「いやあ、美味かった」
美咲「こんなの久々に食べたよ。ホント、ありがとうね」
凌「礼なら父さんに言ってくれよ。今度、マジで会わせるから」
美咲「緊張するなあ、凌のお父さん、厳格そうだから」
凌「そんなことないって。まあ、仕事手伝ってるときは
 いつも口うるさく言ってくるけどさ」
美咲「やっぱ怖い人なんじゃん」
凌「他の父親を知らねーからなぁ」
美咲「どんな家なんだろう。凌の家。
 っていうか行っちゃっていいの?」
凌「うん。だって……」
   凌、テーブルの横に置いていたバッグを触り始める。
美咲「……」
   凌が取り出してきたのはリングケース。
   開くとそこから婚約指輪が出てくる。
   美咲、それを見て若干わざとらしく、目を見開く。
凌「……こういうつもりだから」
美咲「……」
凌「結婚しよう、美咲」
美咲「……」
凌「……美咲?」
美咲、吹き出してしまう。
   凌、それを見て苦笑いを浮かべ、
凌「え?」
美咲「ごめんっ。なんか、おかしくて」
凌「おいっ、これでもこっちは心臓止まるくらい緊張したんだぞ!」
美咲「だって、くるかもって思ってたんだもん!」
凌「はぁ? くるかも?」
美咲「最近、お父さんとか家業の話ばっかしてくるから、わかるよ」
凌「そんなに俺、その話、してたか?」
美咲「うん、いっつも。それで、いつごろお家行けそう?」
凌「そうだな、再来週には……あれ? ってことは……」
   美咲、凌にペコリと一礼し、
美咲「……宜しくお願いします」
凌「(両手を上げガッツポーズ)っしゃあ!」
   凌、さらに立ち上がり、
凌「よっしゃあああ!」
美咲「(立ち上がり)ちょっと、他のお客さんに聞こえたらどうすんの?」
凌「ありがとう、美咲〜!」
   と、遼は美咲に抱きつく。
   美咲も凌の背中に手を回し、抱き合う。
美咲「うん……」
   旅館の庭園に生い茂る緑が風に揺れてざわめいている。
 
◯カフェ・店内
   美咲と夏海が会話をしている。
夏海「マジ? ついに!? おめでとう!」
美咲「ありがと」
夏海「ほら、私の言った通りじゃん。くるよって」
美咲「う、うん」
夏海「玉の輿じゃん。まさか美咲が社長夫人になるなんて。
 ねえ、子どもは何人作るつもりなの?」
美咲「まだそんなこと全然考えてないよ。
 それに、私、また脚本書き始めたし」
夏海「また映画撮るの?」
美咲「撮れたらいいなって思ってる」
夏海「そっか。私も美咲の映画見たいから嬉しい。
 ようやく上手く回りだしたみたいだね。
 仕事もプライベートも」
美咲「うん!」
夏海「実は私もさ、こないだ受けるって言ってたオーディション……」
美咲「うん?」
夏海「受かりました〜!」
美咲「西野ユラの?」
夏海「そう! 西野ユラ本人より目立つ箇所もある、
 ソロダンスパート付き」
美咲「え〜、すごいじゃん! おめでとう! 
 言い出してこないから、てっきり落ちたのかと思った」
夏海「シンプルに忘れてた」
美咲「公演いつ? 行く! 絶対行く」
夏海「来月の25日」
美咲「1ヶ月後ね。空けとく!」
夏海「ところで、凌くんの親とはもう会ったの?」
美咲「2週間後って言われた」
夏海「くれぐれも粗相のないようにね。
 広島から出てきたお金目的の田舎娘だと思われないように」
美咲「はいはい。わかってます」
夏海「なに着てったらいいかわかんなかったら、連絡して。
 数々の男の実家に行った経験則から、
 的確なアドバイスをしてあげる」
美咲「大丈夫だよ。ありがとう」

<続く>

読んで頂き誠に有り難う御座います! 虐げられ、孤独に苦しむ皆様が少しでも救われればと思い、物語にその想いを込めております。よければ皆様の媒体でご紹介ください。