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ドラマシナリオ「未来へのログライン」(♯4) 完結

◯高級レストラン・店内(夜)
   派手過ぎず、洗練された内装のレストラン。
   各テーブルでは、ドレスコードに身を
   包んだ客たちが食事をしている。
   少し高めの、シンプルなワンピースを
   着た美咲が店内に現れる。
   その表情には緊張が見えている。
   スーツに身を包んだ護の座っている席
   に近づき、
美咲「すみません、待たせちゃって」
護「(その声で美咲に気づき)いや、わざわざ
 時間を作ってくれてありがとう」
美咲「全然、すごくお世話になってるので。
 私も、脚本のこと聞きたかったし」
護「とりあえず、飲み物でも頼もうか。
 何飲む? この店、
 いろいろ扱ってるんだよ」
美咲「モスコミュールでいいですか?」
護「オッケー。じゃ、僕は赤ワインで。(通
 りがかったウエイターに)すみません」
    ×      ×      ×
   ディナーを食べ終わった美咲と護。
護「この店……ちょっと奮発しすぎたかも」
美咲「私……食べすぎちゃってました?」
護「全然食べてないじゃない。
 逆にもったいないくらいだ」
美咲「どうしても、お話のことが
 気になっちゃって……」
護「じゃあ、本題に入ろうか」
護、グラスをテーブルに置く。
美咲「……」
護「海野さん、僕は君を口説きにきた」
美咲「……え、そ、それはその……」
   美咲、たまらず頭を下げ、
美咲「ご、ごめんなさいっ!」
護「(吹き出す)そっちじゃない。僕、妻も
 息子もいるし」
美咲「……え?」
護「ごめん、結婚指輪もしてないし、
 紛らわしかったね。でも、
 口説きに来たのは本当だ」
美咲「……?」
護「君の脚本を読んだ」
美咲「……」
護「正直言って、驚いたよ。
 素晴らしかった。僕は脚本家じゃないから
 ちゃんとした評価はできないけれど、
 監督目線で見てみると、
 どのシーンもしっかり映像として
 想像できるようになっていた。
 それだけでも合格点だ」
美咲「ありがとうございます。光栄です」
護「それでね、実は今度、
 仲間と一緒にやっていた制作チームを
 法人化して、正式にプロダクションとして
 旗揚げすることになったんだ。これからは
 僕個人だけでなく、組織として
 さまざまな映像を手がけていくことになる」
美咲「……」
護「ただ、そうするにはもう一人、
 監督ができる人間が必要なんだ。
 より稼いでくれる優秀な若手が。
 僕の中にパッと思いついた人物が、君だった」
美咲「……!」
護「僕の会社にジョインしてくれないか? 
 監督・ディレクターとして」
美咲「私が……ですか?」
護「会社といっても、ほぼみんな個人事業主
 だが、今いる会社以上の報酬は約束する。
 いや、海野さんなら軽くその倍は稼げるだ
 ろう」
美咲「……」
護「ごめん、急に言われてもこの場で
 答えなんて出ないよな。
 君のキャリアを左右することだから、
 ちゃんとした場所で、
 直接会って言いたかったんだ」
美咲「いえ……とても、嬉しいです」
護「君には才能がある。僕はその才能に
 投資したい。
 すぐにとは言わないから、あとで答えを
 聞かせてくれるかい?」
美咲「……」

◯道(夜)
   レストランからの帰り道。
   雑踏を一人、歩く美咲。
   その表情に浮かぶ、迷い。
美咲「……」
    ×      ×      ×
   フラッシュ。
   凌が優しく微笑んでいる顔。
   凌が茶目っ気たっぷりに笑っている顔。
    ×      ×      ×
   フラッシュ。
   丘の上の一本木の前で会話する
   制服姿の卓也と純菜。
純菜「私の夢ね。私は……」
    ×      ×      ×
   立ち止まる美咲、空を見上げる。
   都会のオフィスビル群の隙間に見える
   いくつかの小さな星。
美咲「……(目を閉じる)」

◯ライブハウス・店内
   美咲が目を開けると、目の前には
   ライブステージが広がっている。
   ステージ上では、夏海が
   複数のダンサーとともに、
   西野ユラのバックで踊っている。
   その光景をじっと見つめている美咲。
   夏海が西野ユラより前に出てきて、
   ソロで踊り始める。
   夏海にスポットライトが当たり、
   一連の振りが止まった途端、
   客席からの割れんばかりの歓声と
   拍手が鳴り響く。
美咲「……」
    ×      ×      ×
   フラッシュ。
   ラップトップに向かって脚本を
   書いている美咲。
   時に頭を傾げながら、文字を
   打ち込んでいく。
    ×      ×      ×
   制服姿の純菜の顔が、
   美咲に置き換わっている。
美咲「私は……」

◯道(夜)
   ライブの帰り道。
   一人、考え込みながら歩いている美咲。
   突然、目の前に人が飛び出してくる。
美咲「(驚いて)きゃっ!」
凌「……美咲」
美咲「……凌?」
   凌、美咲に抱きついてくる。
美咲「ちょっ、どうしたの?」
凌「……」

◯美咲のマンション・美咲の部屋(夜)
   ベッドに仰向けで寝ている美咲と凌。
美咲「気づいてたんだ……。私が、迷ってること」
凌「あんな顔されたらわかるよ。タクシーで」
美咲「……起きてたの? あのとき」
凌「タクシーだけじゃない」
美咲「……ごめんね」
凌「なんで謝るの?」
美咲「だって……」
凌「美咲の人生だろ。自分の心に従いなよ」
美咲「でも、そうしたら……」
凌「もしかして、俺と結婚しなかったら、
 もうチャンスなさそうとか思ってんの?」
美咲「……」
凌「アラサーだもんなぁ」
美咲「は? どういうこと?」
凌「俺がなんで美咲に猛アタックしたかわかる?」
美咲「……」
凌「初めて合コンで出会ったとき、
 男メンバーみんな、美咲が
 一番かわいいって言ってたんだよ」
美咲「……」
凌「だから誰にも取られたくなかった。
 そんな女が、これから先、
 誰にも言い寄られないなんて思ってんの?」
美咲「……」
   凌、美咲の方を向き、
   腕を伸ばしてそっと抱き寄せる。
   身を任せる美咲。
   凌、再び上を向くと、嗚咽し始める。
   泣き出した凌の顔を神妙な
   面持ちで見つめる美咲。
美咲「初めて見た。そんな顔……」
凌「(嗚咽が激しくなる)」

◯同・部屋(朝)
   朝日が差し込む、
   電気の点いていない薄暗い室内。
   凌の姿はもう無い。
   携帯電話を手にしている美咲。
美咲「……」
   意を決したように電話を
   持ち上げて画面をタップし、
   耳に押し当てる。
   静かな部屋に響き渡るような発信音。
護の声「もしもし」
美咲「……朝早くにすみません」
護の声「……どうだい? 答えは出たかな?」
美咲「はい、出ました。私……」

◯空港の滑走路・全景
   ジャンボジェット機が
   滑走路を走行している。

◯空港・出発ロビー
   スーツケースを引いた人が
   行き交っている。
   その中に、大型のスーツケースを引き、
   これまた大きなショルダーバッグを
   肩にかけた美咲の姿。
   その向かい合わせに立っているのは
   夏海と護。
夏海「あ〜あ、今日でお別れか。
 せっかく東京でまた一緒になれたと思ったのに」
美咲「ちょくちょく帰ってくるよ」
護「本当に驚いた。
 まさかフランスに映画留学だなんて」
美咲「ごめんなさい。真剣に
 お話してくださったのに、お断りしてしまって」
護「いいんだ。だって、
 それが正解な気がするから。
 いや、断って正解だったと思わせてくれなきゃ
 困る」
美咲「はい、がんばります。
 なんて言ったって、私の書いた脚本の結末ですし」
夏海「ビッグな映画監督になって帰ってきなよ?」
美咲「そうなれば嬉しいけど、
 でも、私……うまくやっていけるかな」
夏海「大丈夫。美咲なら。私が保証する! 
 きっとあの人も、見てくれてるでしょ」
護「あの人?」
美咲「ちょっと、夏海!」
夏海「ごめんごめん。でも、
 人生設計狂わせたんだから、
 絶対結果出さないと」
美咲「わかってる……」
   微笑み合う三人。

◯凌の家・居間
   高級そうな椅子に腰掛けている忠志。
   凌が忠志に頭を下げている。
忠志「結婚も止める、ウチも継がない、
 銀行も辞めたただと? 
 お前、一体、どういうつもりなんだ?」
凌「父さん、俺、自分の力で
 ビジネスを立ち上げたいんだ! 
 誰にも頼らず、自分の実力だけで!」
忠志「……成功するまで
 この家の敷居は跨がせないぞ」

◯空港・出発ロビー
  ゲートに向かって歩いている美咲。

◯凌の家・家の前の道
   ドラムバッグ片手に
   出てくる疲れた表情で出てくる凌。
   ふと青々とした上空を見上げると、
   飛行機が飛んでいるのが目に入る。
凌「……(飛行機を見つめ、微笑む)」

◯街角
   映画撮影用の大型カメラの上についた
   モニター画面を覗き込んでいる女性。
   モニターから目を離すと、それは美咲
   であることがわかる。
美咲「カット! OK!」
   ヨーロッパの街角風の場所。
   周りの白人スタッフたちが安堵する。
   その様子を見て笑顔を浮かべる美咲。
   そのまま美咲の姿だけが画面に残る。

◯丘の上
   美咲の周りにいたスタッフたちが
   日本人になっている。
美咲「よーし、じゃあ、次のカットいこう!」
   テキパキと周囲に指示を送る。

<終わり>

 

読んで頂き誠に有り難う御座います! 虐げられ、孤独に苦しむ皆様が少しでも救われればと思い、物語にその想いを込めております。よければ皆様の媒体でご紹介ください。